「あら。」




そのさっきよりも幾分低くなった声にびくり、と身体が反応する

ちらり、と母親の方を確認する
と、悲鳴が口から出るのを必死に抑え震える身体を抱きしめながらこれから起こりうる出来事が容易に予想できて全身から湧き上がる恐怖を懸命に堪える。




「なんなの、これ…」

母親が手にしているのは今日、弟が書いた作文
隠すのを忘れていた

絶対的にこれを見たら母親は、



「なんなのかって聞いてんだよッ!!」

ガンっと母親が椅子を蹴り飛ばす
あぁ、手遅れだ。




もう、その目にあたしはうつらない
もう、その顔は母親なんかじゃない






目を血走らせ
顔を真っ赤にして
赤く赤く真っ赤に塗りつぶされた口で
彼女は鬼になる。





ずかずか、とあたしの方に来る
反射的に目をつぶって、
顔の前をガードしてしまった

それが気に食わなかったのか
お腹に蹴りを入れられる。


「ゔっ、」

何発も、

「ぅ゙ぁっ、っつ、」

何発も何発も、




まるで人形になった気分
まるでボールになった気分
あぁあの子達も痛い痛い、と本当は心で思っているのかな
あぁあの子達も本当は、泣いていたんじゃないのかな




「ふざけんなっ、ふざけんなっ、」

「うぅ゙っ、ぁ゙、」


痛いから涙が出るんじゃない。
苦しいから涙が出るんじゃない。



憎しみの形相であたしを蹴り飛ばしているのが実の母親だという事実があまりにも悲しいだけ
愛された記憶さえなければ
あたしは人形になれかもしれない
ボールになれかもしれない、のに。