時間の経過がわからない。

まず、最初の苦痛はそれだった。

何もないこの部屋に唯一流れる音楽しか変化するものがない。

何時間たったのか。

それともほんの数秒しかたっていないのか。

それがわからないのは、ひどく苦痛で、動かない腕を無意味に揺さぶってはすり傷を作っていた。

もしかして、このまま殺されるんじゃ、そんなことが頭をよぎったけれど、ホセが私を殺すはずがない。

本当に気が狂ったのなら話は別だけど、そんなふうには見えなかった。

ホセがいつ帰ってくるのか分からなかったけれど、私は信じてホセを待った。


うつうらうつうらしていると不意に音楽が止まる。

変化に体は敏感で、びくっとして私は飛び起きた。

すると違う曲がいきなり流れ出した。

「クラウン…いい子にしてたか…?」

衰弱したようなホセの声に私は思わず顔を上げる。

音楽は完全に止まり、ホセがカツカツとブーツの音を響かせる音だけが反響していた。

__ホセ?大丈夫…?

「…」

座ろうともせず傍らに立って私を見下ろしていたホセはナイフを取り出す。

びくっと体を震わせた私に一瞬ホセが怯んでそのあとため息をついて優しく手錠を切ってくれた。

代わりに足にはめられた足かせはやわらかくて、鎖も長くて部屋中歩き回れそうなくらいはあった。

__ホセ…?

ホセは少し天井を仰ぎ、いいか、と声をかけてベッドに腰かける。

何気ないその動作がかっこよくって悔しい。

「すまなかったな…手首…」

え?とみてみると確かに少し赤くなっている。

少し丁寧すぎるくらい丁寧に傷口を消毒するとホセはそっと私に笑いかけた。

その笑顔にも力がなくて、私はドキマキする前に心配になった。

__ホセ、何かあったの…?

ホセは驚いたように肩をすくめて俯く。

「強いて言うならお前に怯えられた」

そんなこと、と言い出す前にホセが私の口をふさぐ。

「もう少し、恐がれよ…」

なんで俺の心配なんか、と吐き出すように言ってそこで私は唐突に理解した。

苦しそうに微笑んだホセは私を怖がらせるためか首筋をなぞりばさりと翼を羽ばたかせる。

どこか弱弱しくて、私はホセに縋りついた。

__ねぇ…ホセ、なんか疲れてるよ?

ああもう、といら立つようにベッドをきしませてホセは私の視線から逃れるようにそっぽを向く。

「自分のこと、考えろよ」

何されるかわからないんだぞ、こんな状況。

「俺の心配ばっかりするな」

またか、と私は少しあきれる。

何するかわからないやつが手錠外して自分の心配してろなんて言わないの、ふつうは。

ほんと、ホセって馬鹿だよね。

呟いた言葉の馬鹿、だけ聞き取ったらしくて、ホセはごめんな、と謝った。