__私は…

クラウンが話し出したその瞬間、俺の何かが崩れた。

やばい、と思った時にはクラウンを抱き上げていた。

万が一を考えて作った隠し部屋に厳重に結界を創りながら進む。

クラウンが不安げに呼んだ俺の名前も、どこか空虚で俺をすり抜けていった。


ある程度進むとトントンと一定のリズムでホセの体が落ちていく。

今時珍しい“カイダン”。

私は落ちないようにホセの首を抱き寄せる。

ホセはただただ降りて行った。

一言も発しない。

わき目も振らずにただただ進む。

たまにホセの名前を呼ぶけれど、微笑を浮かべるはずの唇はピクリとも動かなかった。


広い広い迷路のような通路をただ前に進んでいくうちに、クラウンが腕の中で震えだす。

__恐いよ、ホセ…

時間の感覚がなくなって不安定になったんだろう。

力なく怖い怖いと呟いているクラウンに動じもせず、ただただ廊下を進んだ。


空間拡大魔法で広げられたであろうその通路は灯ったろうそくしか明かりがなかった。

さすがに怖くて何度も私は降ろして、降ろして、と体を揺らす。

でも降ろしてもらった後、どうするんだろう。

自問して私は初めて気が付いた。

こんな迷路みたいなところから、出られるわけがない…


__やだよ、やだ…っ

わずかな抵抗を示しはじめ、体を揺さぶるクラウン。

俺は無感動に歩き続けた。

この迷路のような地下通路は幾重にも入り組み、出ることは作った俺以外にまず無理だ。

諦めろよ、そう心の中でささやきかける。

お前を、あいつなんかに奪われてたまるか。

クラウンがおとなしくなって、次第にすすり泣く声が聞こえるようになる。

ようやく、俺を敵だと認識したらしい。

自嘲気味に微笑んで俺は歩き続けた。


微かに、微かにホセが視線を落とす。

私は半ば生理的にうるんだ瞳で必死にホセの考えを読み取ろうとした。

でもホセはそれに気が付いたのか一瞬でまた前を向く。

仕方なく私はホセの心臓に額を押し付けた。

お願い、教えて…


クラウンは抵抗をやめてそっと俺の体に顔を押し付ける。

一瞬心臓が跳ねて、俺は表情を崩した。

好きだ、クラウン。

だからお前を、守って見せるから。


「愛してる」

そっとささやかれたホセの言葉は、どこか不安げで、私はもっと強くホセを抱きしめた。