そっと、ホセはクラウンの寝顔を見ていた。
花畑から帰って来るなりサリナの恋人のロランを呼んだが来ない。
ホセは完全に骨抜きになったであろうロランに哀れみとともにすこしの警戒を抱いた。
何故死んだのかは印されていないがあいつに殺されたのは確かだった。
女が先に、それを追って男も。
「クラウン…」
眠り姫のような美しさに見とれて、ついベッドに腰掛ける。
本当に愛されているのだろうか。
クラウンに。
嫌いなんじゃないかって、何度も思った。
そのたび、馬鹿な俺はずっとわからず仕舞いだった。
「好きでいてくれ」
理想の人は、誰なんだろう。
どういう人なんだろう。
なりたい。
自信を持って自分は好かれていると言える人に。
「許せ」
そっと、僅かに震えるまぶたに口づけた。
絶対守ると、俺は誓った。
「一緒に、生きてくれ。クラウン」
こんなに綺麗な人が、触れられるほど側にいる。
幸せ過ぎて、おかしくなると思った。
「ああ、わかってる」
『頼むぞジュエル君。君だけにかけるのはどうかと思うが』
「いえ、大丈夫です。気にしないで」
『無理はするな?』
「…」
『ジュエル君?』
「大丈夫です」
『待ちなさいジュエル君!君はいつもそ…』
「切りますね」
不意に途切れた会話。
午前2時半。
今日も徹夜だ。
明日も、明後日も。
ずっと。
ずっと。
「俺は、一体誰に必要とされてるんだ?」
暗闇に問い掛けたが、返って来ることはない。
そう、思っていた。
馬鹿じゃないの。
パッチリと目を開いた眠り姫、いや女神、違う妖精、でもない、クラウンが言った。
「悪い、起こしたか。寝ろよ?体に悪い」
全部聞こえた。
ドキッとして俺はそれを隠してクラウンを撫でる。
「馬鹿をいえ、かわいいクラウン?ちょっと寝るんだ」
ホセのばか。
ニコニコしていると左手を強く引かれて俺はベッドに倒れる。
「おい、何するんだ。お前の肌に傷が付いたら…」
愛おしいんだ、お前が。
クラウンは俺の髪を引っ張る。
自然と引き寄せられて俺は僅かにクラウンに触れた。
ドクッ、と心臓が跳ねる。
クラウン、と諭せば、やっぱり馬鹿。
と返ってきた。
ホセは、本当に必要な人なんだよ?
ホセのこと、大好きだよ?
だから、泣かなくていいのに。
泣く?
「何のことだ」
俺は、泣いてるのか?