パーフェクトフィアンセ


見るからに今時風のフワモコ猫耳パーカーなんかの前で私は足を止めた。

「それ、欲しいのか?」

違う。私が立ち止ったのは、それに見覚えがあったから。

淡い水色に大きめのフード。

帽子の紐の部分は白の綿毛みたいにふわふわ。

優しい笑顔で笑うウィングの恋人…

「…っ」

一瞬、ホセが苦しそうに顔を歪めた。

「欲しいのか?」

私はううん、と首を振ってその場を離れた。


ラフな服が欲しいと言うとホセは笑ってそうか、と言う。

「いいよ、いくらでも買ってやる」

こつん、と額を指ではじかれて痛っ、と悲鳴を上げホセを睨む私。

「そんなに痛いのかよ」

柔らかに微笑んでホセは花色のニット風ワンピをつかんだ。

「これ、似合いそう」

ホセ…

どう考えても短すぎない?

「いいんだ」

絶対可愛い、と言い張るホセ。

心なしか楽しそう…いや、愉しそうにしているのは気のせいではないと思う。

「短パンと着ればいいだろ?」

渡してきたのがまた短い。

意外に変態なのあなたは。

「まぁ、モデルがいいと何でも似合うな」

やっぱり勝手だった。

「あぁ、これも合わせれば…」

ファッションセンスは認める。

けど、試着した私は鏡を見て唖然とした。

「天使になってる…」

ホセの言い方も、あながち間違いではない気がした。

だって、まるで別人なんだもん。

「可愛すぎる」

イケメンが。

格好良すぎるからちょっとやめようよ。

「惚れる」

勝手過ぎる。

「過去形で…だけどな」

顔を赤くした私に、ホセはにっこりと笑った。

「じゃ、靴も買わなくちゃな?」


何故に靴?

しかもロングブーツ。

うん、確かに可愛いけど、もう鏡の前の人が私じゃない。

人って変わるんだね。

「天使だ…いや、女神…綺麗…綺麗すぎる…」

トロンとした瞳で私を見るホセは嘆息を漏らした。

「やっぱり宇宙一の美女だ」

男は貴方だけどね。

私はそういいたいのを溜息と一緒に呑みこんだ。

代わりにホセに悪戯っぽく舌を出して言った。

ホセも買お。

一瞬大きくホセの瞳孔が見開かれた。


シックな落ち着いたやつばっかりだから、たまにはラフなのは?

そう聞くとホセから頼むから軽めにしとけよ、と冗談交じりに返ってきた。

スニーカーに短めのジーパン、上は七分の綿素材のシャツに九分のパーカーを羽織らせる。

手袋はずして、と言ったら絶対嫌だと言うホセ。

外したほうが絶対格好いいから、と説得するも全く承諾してくれなくて、私は頭を抱えた。

むう、と膨れると仕方ないな、今日だけだと手袋をはずして両手に防護魔法をかけるホセ。

透明な手袋ははめているものの、私は嬉しくてギュっとホセに抱き付いた。

「なんだよクラウン」

細い、と笑うとお前に言えたことかと笑われる。

細くて白く長い指が戸惑いがちに私の髪を梳いていく。

「可愛いな、やっぱ」

そしてやっぱり戸惑いがちにホセは笑った。