ホセ、と夢見心地に名前を呼べば黙って頬をくすぐられる。

身をよじると、不機嫌な声が降ってきた。

「何でこんなことした」

おまじないだよ、と私は笑う。

ホセが早く、帰って来ますようにって。

「…そんなことしないでもいい」

いいでしょ、と私は言った。

だって私の体だもん。

「…クラウン」

咎めるようなその声に、私は顔を上げた。


「結婚してくれ」

そしたらお前の体は、俺の物にもなるんだ。

そんなことを言って、ホセは私を乱暴に抱きしめる。

「結婚しろ、その命惜しかったらな」

ホセは私の手を取り、指先に口付けた。

「結婚して下さい、クラウン様」

はめられた指輪は、ホセにしてはシンプルなデザインだった。


「どれかは気に入ったろ、他のがいいならリクエストにも応える…」

土下座でもしようか、とホセは言った。

「返事くれよ、クラウン。とりあえずお前の意見を聞かせてくれ」

嫌ならそれでいい。

どれだけかかっても振り向かせるから。

どんなに醜くても足掻くから。


危険な金の瞳は、しっかりと私を捕らえて離さなかった。


「クラウン」

催促に、私は首を振った。

「言質取らせろ、クラウン」

形式なそれに、私も従うことにした。


差し出されたボイスメモリに、始めにホセが吹き込む。

「御娘様、私に生ある者の最大の名誉を御与え下さい」

私も、そこに証拠を吹き込んだ。


与えましょう。

ジュエル=ホセ、生ある者で最も…


優しき、勇気ある人に。