「あの精霊はな、クラウン。過去の産物なんだ。だから過去に戻さなくちゃいけない」
そんなことは知ってる。
どういうことなの、捨てるって…
「俺一人の問題じゃないんだ。…おい、生きてるか、アクア」
ふぇーとアクアが気のない返事をしてムギュッとホセにしがみついた。
…なんか、イライラする。
「俺が思うに、あいつは簡単に元の世界に戻すことができるだろう。だけどな、それによって失う物が大きすぎる」
「ん?どういう意味ですか?精霊様をぶち殺してつるし上げてやればいいんですよね?」
THE・乱暴。
精霊様をぶち殺すって…
「…覚えてるか、精霊が星の声を聴かせるために作った“それ”…」
星から力を借りるために作った生き物だよね、精霊とともに半永久的な命を与えられた…
ん?
何か引っかかるような…
「…精霊とともに滅びたその末裔が、お前なんだよ、アクア。星の声が聞こえる奇跡の妖精。お前は精霊が生きてる限り永遠に生き続けることができる」
「そうですか、それはよかったです」
「だがそれはいいかえれば、精霊がこの世界に“いなければ”お前は存在できない。精霊が死んだらお前も死ぬ。精霊が生きてたらお前もいきる」
「なんだかストーカーじみてて気持ち悪いですね」
「そうだな…言葉通り一心同体、みたいなもんか」
ホセはアクアの首根っこを猫にそうするようにひょいと持ち上げた。
…さすが、人間も哺乳類だということを思い出させられる。
「あいつをクラウンを守るために殺したとしよう。そしたらアクアも一緒にさよならだ。逆にアクアを守るためにあいつを生かそう。今度はクラウンがお陀仏だ」
うん、ホセが言ってることはほんとによく分かった。
そしてホセが何を考えてるのかも…
「何度も何度も俺は精霊に二人とも助けてくれと頼み込んだ、が。結果がこれだ」
そういってホセは袖をめくり上げ、ずいぶんと食い込んだ針金の跡をさらす。
「…」
「もちろんただでとは言わない、俺の命とアクアの恋人をやるといったんだが…」
「はぁ!?何勝手にてめ…」
「安心しろ、もし承諾したらお前は何とかごまかすことにしてある。逃げたとかなんとか…それで納得してくれればのはなしだけどな」
「…」
ウィングをも容赦なく差し出す悪魔的な微笑みを浮かべると、ホセは自嘲気味に高笑いをした。
聞いたことのない、ぞっとするような声。
「アクア、生きたいか?」
それはまるでホセらしくもない凄惨な微笑み。
「生きたいなら悪かった、クラウンのためだ…」
返事を待たずに、ホセはアクアの首筋をつかむ。
「死んでくれ」
なんて綺麗なんだろ。
残酷な笑顔すら、獲物に目をそらすことを許さないほど。

