パーフェクトフィアンセ


「あぁぁぁぁ!!!」

ウィングが一気に脱力する。

私もへなへなと床に座り込んだ。

アクアはずっとつぶれてうぐう、とたまに喉がなっている。

人間、限界を通り越して努力すると、目的を達成してもさほど喜びを感じないらしい。

努力も疲労もほどほどに、ってね…


ホセ、何かわかった?

「お前の名前はジュエル・ホセ。お前の記憶は俺が消した。そこにいる金髪がクラウンだ。女の子はアクア、お前の妹。残りはウィング。知りたいこともたくさんあるだろうが、今は要点だけ説明してやる…」

なんて上から目線の文章だろう。

ホセはかじりつくようにしてパズルの上に四つん這いになっている。

時たま私とアクアを見比べては納得したようにまたパズルを見る。

ぶつぶつ呟き続けていたけれど、次第につぶやきまばらになって、なくなった。

ね、ホセ、どうしたの?

何か…

「クラウン。ここからはお前に読んでほしいらしい」

え、と私はホセと交代する。

パズルに目を這わせると、おぼろげながら、なんとか読めるような気がする。


クラウン、おそらく俺はあの精霊に捕まって拷問か何か受けるはずだ。

拷問だけならいいんだが、頭の中までほじくり返されたらどうしようもない。

だから俺は自分の記憶を消した。

今俺がそばにいるんだろう?

それならおそらくはお前の居場所はばれてはいない、よかったな。


…よかったな…?


だが記憶を消してそれが戻らないんじゃどうしようもない。

だからこのパズルを作っておいた。

完成できたのかどうかは知らないが、できたんならおめでとう。


…おめでとうって…


俺はお前に関する記憶、念のためアクアのやウィングに関するものもすべて消すつもりだ。

自分の名前も消すべきだろう。

吸血鬼であることはとりあえず残しておくが、ほとんどすべてが闇の中だ。

結局、残ったのはきっと、俺に渡したメモとあの迷路だけのはずだ。

何かの拍子に逃げ出したら、この迷路に来るよう暗示をかけておいたから…

だがつまり、この迷路に入れば記憶がまた抹消されるからな。

お前の場所にたどり着けるかどうかは賭け、というかどうでもよかった。

ここに入れる方法を知っているのは俺だけだし、俺を除かず記憶も消える。

途中で俺が野垂れ死にしたら永遠に秘密は守られる。

永久にお前は囚われの姫だ。


…他人事…


ま、俺が生きててハッピーだ。

これでおそらく一生分の幸福を使い切ったな、俺は。

だが残念ながら俺が生きてたらするべきことがある。

幸福がなくなったからって甘やかしたりせず遠慮なく一から十まで搾り取れ。

何か残ってたらな。

俺が苦しみのあまりおかしくなったらこの部屋からたたき出してやれ。

また記憶を消すから。

そのあとこれを読ませてやればすぐに記憶が戻る。

便利だろう?


…便利かどうかはともかく、ホセには自分をいたわるという観念がそもそも存在しないらしい…


クラウン、俺も俺の記憶を完全にここに残すことなんてできない。

俺の記憶を完全に戻す方法は一つだけだ。

でもそれをお前に教えたらきっとお前はどうあっても俺を元に戻そうとしてくれる。

俺はその方法を知ってる。

すべてが終わって、お前が行方不明じゃなくなった時に、聞いてくれ。

俺のお前に対する思いもきっとその時戻るだろう。

やっぱり文章だけじゃ伝わらない。

だけどクラウン、無茶なことを言ってるのはわかってる。

お前を知らない俺を、嫌いにならないでほしい。


「クラウン、アクア」

ホセはあの悩まし気な表情で私を見る。

「俺は、やらなきゃいけないことができた」

ねぇ、ホセ。

ホセはいつも一人で。

「でもできないんだよ、俺には、どうしても」

どこまでも不安げに、ぽてっと仰向けに倒れる。



「なあ、できない。クラウン、アクア?どちらかを“捨てる”なんて」


…捨て、る?