けが、か。
すぐにはグランドに向かわず、途中にある水のみ場の縁に座って考えていた。
夏の大会に間に合わないかもしれないなんて…。
最近、レギュラーになれたばかりなのに。
一人で考えているとネガティブなことばかり考えてしまうのでグランドに戻ろうとして立ち上がると、優太が走って来た。
「茜!何してんの?れん……」
「何もしてないよ。ただ座ってただけ」
「どうしたんだよ!?その肘!けがしたのか?」
氷を当てている私の右肘に気付いたらしく、急に二の腕をつかまれた。
「大丈夫なのか!?」
正面からそんなに言われると思わず、言葉がこぼれそうになる。
必死に唇を噛んで涙をこらえる。
ああ、もう、ダメだ。全部、出る。
「うっ…。ふううっ…。」
大粒の涙が零れ落ちてしまった。
悔しくて、すごい悔しくて。でも痛み以外で涙は出なかった。
でもやっぱり優太に見つめられたら、もう止まらなかった。
「けが、したんだな。
お前、大丈夫かよ」
「大丈夫って言ってんじゃん。
これくらいのけがなら大丈夫だよ」
「イヤ、そうじゃなくて、精神的なことで。
お前が泣くなんてよっぽどの事があったんだろ?」
優太の言葉が心に刺さる。
1本1本、優しく刺さってしまう。
「きょ、今日、ボールが肘に当たったの。それで保健室行ってきたら重傷かもしれないって。言われて…それで」
「そうか」
抱きしめられたことに気付いたのは、手をほどかれた後だった。
優太の腕は私の知らない間に強くなっていた。
「ゆ、優太?」
「お前、俺の前で強がってもムダなんだって分かってるだろ。なら、俺の前でくらい泣けよ」
「…………っ」
優太は私の知らない間に強くなっていたんだ。
ずっとずっと一緒にいたのに、気づかなかった。
こんなに〈男の子〉だったんだ。
「うん、ありがとう」
涙を拭いてそうやって言うのがやっとで、それ以上の言葉は何も出てこなかった。

