二人で教室に入った。
「あ、マキちゃん。
おはよー」
「おっす」
机に突っ伏していた顔を向けて、手を上げて挨拶された。
机に荷物を置いて
「なに?寝てたの?」
と訊いた。
「んー。さっきまで課題やってたから」
「さっきって教室でやってたの?」
「いや。朝の5時までやってた」
「はあ!?寝てないじゃんそれ」
「うん。今日の睡眠時間は二時間ですよ。
チョー眠い…」
「また寝るな」
マキちゃんの頭にチョップをお見舞いしてやった。
「つーか、こないだの部活で倉元にお前のことで怒られたんだけど」
「あー…。あのことで怒ったのかな」
「お前なー、倉元にそんなこと話すんじゃねーよ。
俺、そのあとずっと走り込みやらされたんだぞ」
「え?優太に?」
そんな権限が優太にあったとはびっくりだ。
「ちゃうちゃう。
1on1やらされて、負けた方がその日の練習中ずっと走らされるの。しかも毎回」
「へー。それで毎回マキちゃんは走っていたと」
「俺が毎回負けたと思うなよ」
「え?優太に勝ったの?」
優太はバスケの腕は、すごくて中学に上がるとき推薦で私立に行けそうだったけど、友達と離れるのが嫌という理由でここの公立の中学に入った。
「10回やって、2回勝った」
「8割優太の勝ちじゃんか」
「うるせー」
でも10回中、2回も優太に勝てるとは。
意外とマキちゃん、やるな。
見たかったな。
「ほらぁ、席につけぇ」
担任の浜ちゃんが入ってきた。
「おーい、槇田ぁ。
ねてんじゃねえぞぉ。起きろぉ」
浜ちゃんは語尾を伸ばすのが癖で、いつもマキちゃんがモノマネしている。
「寝てませんよぉ。
目ぇ閉じてるだけですぅ」
「そうかぁ。
じゃあ一日中開けとれぇ」
「そんなんしたら俺の目が干からびちゃいますぅ」
いちいちモノマネして返すから、笑いそうになってしまう。
めっちゃ似てるし…。
「ぶふっ」
こらえきれなくて、噴いてしまった。
他にも私につられて、笑い出す人が続出した。
「菊崎ぃ。なに笑っとんじゃぁ」
浜ちゃんが私を睨んだ。
ヤバイ、恐い。
「いや、何でもないです」
「なんだぁ、先生の顔になんか付いてるかぁ。
何に笑ってるんだぁ」
「せんせぇ、顔に虫が付いてますよぉ」
マキちゃんが言った。
「なにっ、マジかぁ」
「あっ、ごめんなさい、それはせんせーの目でしたぁ」
「なっ…」
どっとクラスが笑いに包まれる。
マキちゃん、ナイスだ。
浜ちゃんをコケにしてくれた。
「もういい!
始業式が始まるから、お前ら廊下に整列しろ!」
初めて浜ちゃんが語尾を伸ばしていない喋り方を聞いた。
みんなそこに笑ってしまっていた。
「浜ちゃん怒ったね」「槇田、ナイスだわ」「サイコーマジウケる」「つーかモノマネw」
クラスが笑っているとき、浜ちゃんと紗菜だけあまりいい顔をしていなかった。
「紗菜?怒ってる?」
「怒ってる訳じゃないんだけど…。
あんまりクラスで担任の先生いじめるのはちょっとなーと、思って…」
さすが、マジメ。
さっきまでテンション高すぎて子供っぽかったけど。
紗菜は実は、学年で3番目に頭がいい。
いつも一桁には入ってる、頭の良さ。
「まー、いきすぎたら私も止めるけど。
これくらいならいいんじゃないの」
「そーかなー。
それと、私、槇田くんって苦手だなー」
「え?何で?おもしろいよ」
「おもしろいと思うけど、ノリが無理。
ついていけない」
「ふーん」
ノリが無理。ってどういうことだろう。
「紗菜が苦手なら、紗菜がいるときはあんまり喋らないようにする」
「うん。ありがとう」
感謝されてもなー。
マキちゃんのこと、苦手どころじゃなくて、普通に嫌いなんじゃないのかな…。

