「それでねー、タイムセールでこのサラダ買って来たのよ。美味しいでしょう。
ハンバーグはさっき特製って言ったけど、実は冷凍のやつを焼いただけなの。でもソースは頑張って作ったのよー、だから…」
「…………」
「…………」
お母さんは、沈黙を貫く私達を完璧に無視してずっと喋り続けている。
気まずい…。
隠れてキスしてたの、バレてないよね…。
いや、隠れてはいないけど。たまたま見えなかっただけなんだけど。
「スーパーで加藤さんに会ってね、ついつい喋り込んじゃって。30分くらい同じ所にいたのよ。それで店員さんが…」
「ごちそうさま」
私はお母さんの言葉を遮るようにして、食器を持って立ち上がった。
「あら、茜、今日は早いのね」
「はあ?お母さんがいつもより遅すぎるだけでしょ」
「俺もごちそうさま」
立ち上がった陽太と目があって、慌てて反らす。
「私、自分の部屋行ってるから」
キッチンに食器を持って行ったあと、2階に上がった。
40分ほど経ってから、コンコンとノックする音がした。
「茜、俺だけど」
声の主は陽太だった。
「いーよ、入って」
ドアが開いた。
「おばさんがスイカ切ったから二人で食べろってさ」
陽太の手には、すごい量のスイカがのったお皿があった。
「え、多くない。それ」
「俺が食べるって言ってきた。
茜も食べるだろ」
「まあ、スイカは好きだけど…」
毎年スイカを食べ過ぎて、お腹を壊すのがオチだ。
トイレから出てこれなくなってしまう。
どかっと、陽太が座ってスイカを食べ始めたのでそれに倣って、陽太の向かいに座ってかぶりついた。
「甘っ」
「そーだな」
「陽太、ほっぺに種付いてるよ」
「え、どこ?」
「ほら、ここ」
私は手を伸ばして、陽太の頬に触れた。
「あ…」
ヤバイ。
予想以上に恥ずかしかった。
元々気まずい空気だったのに、こんなことするんじゃなかった。
「あのさ、さっきのことなんだけど」
「さっき?」
「あの、キスしたこと」
「あっ…。そのことね…」
カアッと体温が上がった。
なんでそんなサラッと言うんだ、この男は。
「嬉しかったりした、ていうのは茜、どういう意味だった?」
スイカ食べながら、話す内容じゃない。
これは。
何を食べていればいいか聞かれたら何も言えないけど…。
「それは俺が好きってことでいいのかな?」
「あ、それはその、なんと言いますか…」
「俺のこと、好き?」
顔の距離がまた近くなる。
今度はニヤニヤしてない。
《男》の表情だ。
なのに、恐くなかった。
落合先生を連想させることもなかった。
ただ、心臓が壊れそう。
「す、す、好き、かもしれない」
「……かもしれない、か」
「うん。まだ確定じゃないです」
ゼロじゃない。
だけどまだ100じゃないから。
「わかった。約束は明日だもんな」
「うん。明日、ちゃんと言う。
明日までには決めるから」
私は贅沢者だ。
少なくとも、モテる二人を選べるなんて。
「もし、お前が優太を選んで後悔したら、俺はその時、お前をもらいに行くからな」
「………っ」
何よ、それ。
俺を選べ、とは言わないんだ。
また陽太の言葉で心が揺れる。
一緒にいて、笑わせてくれる優太。
一緒にいて、守ってくれる陽太。
私にとって、どちらが幸せなのか。
悩むばっかりだ。

