よしっ。
準備完了。
私の浴衣は白に紫の蝶柄で、薄く銀色のストライプの模様だ。
お父さんが、
「茜…。綺麗になったな…」
何か珍しいモノでも見たように、ため息しながら言った。
またインターホンが鳴ったので、私は直接玄関まで行った。
「ジャストタイミング」
「準備、ちゃんとおわったな」
思った通り、優太と陽葵だった。
二人はいつもの半パンにTシャツというスタイルだった。
「……………」
「……………」
「なんで二人とも黙ってんのよ。
早く行こうよ」
「………あ、ああ」
「そ、そうだな。混まないうちに行くか」
二人とも何となく不自然だ。
急にどうした?
「お金、いっぱいもらったからたくさん食べるぞー」
「………ああ。そうだな」
『また太るぞ』くらい返ってくると思ってツッコミを用意して言ったのに、ホントにどうした?
「ねえ、今日おかしくない?
二人ともさあ」
「いやっ、別におかしくないし。
なっ、陽葵」
「うん、まあな」
陽葵は少し沈黙してから言った。
「茜がいつもよりかわいいからかな」
「え、」
そういうことをサラッと言うなんて、陽葵らしくない。
「ナニソレ。キモチワル」
「ホントだから。
全部カタカナとか、地味に傷つくわ」
「陽葵…。お前ってそういうの言えるヤツだっけ」
「…今日は特別だよ。
なんたって、ライバルいるし」
なんの話か分からなかった。
ゲームのこと?
「そういうことね。
俺も頑張らなきゃいけねーな」
優太がポキポキと指を鳴らした。
何?ケンカするの?
何?このいたたまれない空気は?
「よし。じゃあ、行こーぜ」
そう言って、陽葵は私の手を握って歩き出した。
「お前っ。セコいな」
すると優太は空いている、左手を握ってきた。
え、ナニこれ。私、両手握られてるんですけど。
周りの人に変な目で見られてる。
マジで意味わかんないよ。これ。
「ほら、お前リンゴ飴好きだろ。
今すいてるから買いに行こーぜ」
「いやいや、たこ焼きのが好きだろ」
「ま、待って!」
「ん?ナニ?」
「たこ焼きがいい?」
「そーいう問題じゃなくて!
とりあえず、…手を、離してもらえますか」
もう限界だ。
手汗がヤバイ。
それで周囲の目がヤバイ。
「お前、手、離せよ」
陽葵が優太に言った。
「は?やだよ。お前が離せよ」
なんでこうなる!?
「ちがっ、私が言ってるのは両方離してってこと」
二人とも、一瞬《む…。なんでだよ。アイツが離せばいいだろ》という目をしてけど無視だ。
私が両方、同時に離した。
「と、ととととりあえず、別行動です!
解散っ」
人混みを駆け抜けた。
あの空気はダメだ。
落合先生の時と、苦しい時の空気と、
似ていた。
最近、忘れてたのに…。
また思い出してしまった…。
忘れたかったのに…。
「ハァ…ハァ…」
息切れがすごくなってきたので、走るのをやめてベンチに腰を下ろした。
「もう…嫌だ…」
なぜだかわからないけど、涙が出た。