【優太side】

いつから、君への気持ちが溢れ出したのだろう。

君があの日、俺に助けを求めたからなのかもしれない。

「優太!」

君が俺の名前を呼ぶ度に、嬉しかった。


俺が「何?」って答えると君はいつも笑って話をしてくれた。

3年前の夏、君は地域のイベントの肝試しに参加した。

君と陽葵と3人で歩いていた。

陽太は怖がって走って行ってしまった。

「ひ、陽葵…」

「茜、大丈夫だ。まだ俺がいるから」

今考えると恥ずかしいセリフを言ったものだと、我ながら感心する。

でもそう言うと、君は安心して俺に肩を預けて歩き出した。


二人で歩く、山の中はとても楽しかった。

夜空に星がたくさん煌めいて、これは俺たちのモノなんだ、と思った。

肝試しから抜けると、君は

「優太がいたから抜けられたね。
一緒にいてくれてありがとう!」

俺のものにしたいと思った。

心も、体も、全て。

陽葵の気持ちに俺はこのときにはすでに気づいていた。

だけど、応援はしなかった。

だって、俺も茜が大好きだから。


中学に上がって間もないことだった。

君は俺でもない、陽葵でもない、違う男をその眩しい瞳で見つめていた。

だから、ある日、思いきって尋ねた。

「…お、お前、さ、」

「ん?」

「2年になって、その、好きな人、できた?」

君は、

「…ううん、特にいないよ」

そう答えた。

嘘だ。

君は俺に初めて嘘をついた。

言って欲しかった。

ただの自分勝手だけど、君の気持ちを知って、早くふられて楽になりたかった。

でも、水のみ場で泣いていた君の姿を見たとき、守りたいって思った。

俺なら君を守ってあげられる。

俺なら悲しませない。

先生なんか見てんじゃねえよ。


俺を見ろよ。


そんなことを思った。

大好きだから、踏み込めない。

好きすぎると、こんな気持ちになるのかと初めて感じた。

俺の前では泣いてくれた君は、いつの間にか弱くて脆い、〈女の子〉になっていた。

〈俺はお前が好きだ。
だから、泣くな。俺が笑わしてやるから〉

そう言えたなら、よかった。

でも君が泣いてるのは、けがをしたからであって、誰かの気持ちが欲しかった訳ではない。


だから言わなかった。

言えなかったんだ。
ただの、ビビり。弱い、ヤツなだけ。


陽葵にとられるのが恐い。

落合にとられるのが悔しい。


だけど、それ以上に君が好きだった。

たまらなく、今だって好きだ。

俺のものになって欲しい。

でも傷つけたくない。

君は今、誰を想って泣いているのだろう。

グランドから屋上で泣いてる君を見て思った。

また、何かあったんだ。

俺が慰めてやんなきゃ。


それで君が笑ってくれるのなら、


俺は死んでもいい。