梅雨があけて、プールの時期が来た。
今年の梅雨入りは、予想外に早くて梅雨明けも、それに伴い例年よりだいぶ早まった。
「菊崎はずっと見学だなぁ」
体育の筋肉ムキムキ萩野(はぎの)先生に言われた。
「そうなんですよね~
プール大好きなんですけどね」
「だよなあ、お前はタイムこそ早くはなかったけど、楽しそうに泳いでたもんなあ」
嘘だ。
プールなんて本当は大の嫌いだ。
最近は胸も成長してきて、プールの授業は男女場所が同じなので、男子の目が気になって仕方ない。
それにA組と合同なので陽太もいるんだ。
恥ずかしすぎて死ぬわ。
プールの授業中、萩野先生に言われた通り、私はビート板を運んでいた。
左手だけでやっているのでさすがに疲れて来た。
「茜~。
新記録出たよ!」
紗菜が私に向かって走って来た。
プールサイドで走ったら危ないよ、と私が言う前に紗菜は転倒した。
「痛った~
腰打ったよ、めっちゃ痛い~」
「バカ、何してんの」
「大橋さん、転んだの?」
私が紗菜に手を伸ばそうとしたら、隣から陽葵の手が伸びて来た。
「そっ、園川君、ごめん大丈夫だからっ」
「んなこと言ったって、茜の手を掴む訳にはいかないだろ?こいつ、けがしてるし」
「あ、そっちの問題ね…」
「え、何?聞こえなかった」
「ううん。何でもない!
私は大丈夫なので!では!」
と言って、陽葵はまた走って行った。それでまた遠くのほうで転んでいた。
「大橋さん、面白いね」
「どうだか。危なっかしいだけな気もするけどね」
私は言ってから、はっとした。
そいえばあの日、手を振り払ってしまった日から気まずかったんだった。
だから、そのまま逃げようとしたら。
左手首を掴まれて更衣室の前まで連れていかれた。
「何すんの!?
私、やることが…」
「なんで最近俺のこと避けんの?」
これが俗に言う〈壁ドン〉か。なんて思っている場合じゃない。
「…………」
「答えて。
答えないと放さない」
そんなこと言われたって、今の私は石と化してるから一言たりとも喋らない。
「ねえ。なんで?」
「…………」
「何にも言わないなら、キスしちゃうよ」
「………っ」
陽葵の顔が近くなってきた。
陽葵は顔がいいからどうしても、ドキドキしてしまう。
でもどうせキスなんかしないから、私は余裕で待ち構える。
「そう、されてもいいんだね」
「んんっ」
唇が無理矢理塞がれた。
本当にするとは思っていなかったので、すごい焦った。
「やっ、やめ、んん」
陽葵は止まらない。
優太は優しく抱きしめてくれたことで〈男の子〉を感じたけど、陽葵は圧倒的な力で感じた。
私が押し返そうとしても、何の反撃にもならない。
キスの嵐がやっと終わった。
「……最低」
「何が最低?
勝手にキスしたこと?ここに無理矢理連れてきたこと?」
「全部だよっ!」
「じゃあお前は好きな人に1ヶ月以上避けられる気持ちがわかんの?」
「は?」
「お前だったらどう思う?好きな人に避けられっぱなしっていうの」
「……ねえ、それどういう意味?」
「そのままの意味だよ。
いくら鈍くてもわかるだろ」
そして陽葵は言った。
「俺はお前が好きなんだよ」