落合先生に教室から送り出されて、私は校門まで来ていた。

先生と生徒。

やっぱりそういう関係だよね。

好きになった時から知っているはずなのに、胸が痛い。

「あ~かねちゃん!」

声に顔を上げると、そこには椎名先輩が立っていた。

「あ、先輩。部活は…」

「んー?今日はね、病院に行くからお休みしたのぉ」

一番会いたくなかった、椎名先輩に会うなんて。
本当に運が悪い。

「肘の骨ヤバかったんだって?伊藤先生に聞いたよぉ。
部活はどうするの?」

「あ、しばらくお休みします。
でも、けがが治ってもソフトはもうできないので…」

「あーそーなんだ~。
私、もっと茜ちゃんと練習したり、試合、したかったなあ~」

よくもそんな白々しいことを、余裕で言えるものだ。

昨日、あんなこと言ってたくせに。

「あのね、私ね、茜ちゃんと試合してると落ち着いてプレーが出来るの。
だから茜ちゃんがけがしたのホントに残念だなぁ」

「椎名先輩、私、昨日聞いたんですよ。
先輩達がお話しているの」

「え…?」

反論はあまりしたくなかったが、思わず言ってしまった。

もういい、自分を犠牲にしないと自分が壊れる。

「聞いたって何を…」

「〈レギュラーの中でも一番下手だからあの子がミスすると私は安心できる〉…でしたっけ?
すみませんね、一字一句覚えているわけではないので。内容は合っていますか?」

「……………っ」

いつもはきれいな顔の、椎名先輩の顔が歪む。

「そんなこと言われて、私、部活行きたくないです。
そうだ、皆に今のを聞かせてしまおうかな。
どうです?椎名先輩やってみますか?」

「そんなのっ。やめてっ。
お願いだからっ」

先輩は私に覆い被さるように飛び付いてきた。

非情な私はそれをすかさず、避けた。

勢い余って転んだ先輩を上から見下ろして、私は言った。

「そんなに言ってもらいたくないぐらい部活やりたいんだったら、後輩いじめないでください。
悪口言うのは構いませんが。誰にも届かない場所で言うように気を付けてくださいね」

最後に一礼して、私はその場を去った。


どうだ、見たか。


私は暴力や一方的な言葉の圧力には弱いが、相手を言葉で怯ませるのはめっきり強いのだ。

「あーすっきりした」

一人で歩く帰り道で、そう呟いた。