恋の練習屋

こんな奴を落とそうなんて馬鹿みたい。時間の無駄よ。無駄。


そう思ったら、なんだか肩の力が抜けて宮原陸の目の前の椅子にドカリと座った。


「はぁー……。で?ほんとに何するの?」


「あんたは自分の恋愛を振り返るべきだ」


「はぁ?」


「人は終わった恋愛を振り返ることで、次の恋愛をより良くしようとする」


頬杖しながら聴く私も私だけど、宮原陸に至っては、本を読んで私すら視界に入れずに話す。


「あんた、振り返ったことないだろ」


ちらりと覗いたその瞳が存外綺麗で、少し胸が高鳴った。


でも、その言葉は辛辣そのもので。


「……ないわよ」


その瞳に耐えられなくて思わず、目を逸らしてしまう。


「……最新の彼氏との、最初のデートの場所は?」


「はぁ?そんなもの、覚えてな……」


「思いだせ。最新の彼氏と行ったデートの場所、全て。これに書きだせ」


そう言って私の目の前に差し出してきたのは、1枚の紙と1本のペン。


そんな無茶な。覚えてるわけ無いでしょ。


ふざけてんのか、このハニーフェイス変人!と睨んでみたけれど、その眼は本気そのもの。


その眼に負けて、うろ覚えのデートの場所を書き出していく。


2、3個思い出したらおんの字かな、と思っていたけれど、案外覚えているもので。


ほとんどのデート場所を書き終わり、宮原陸に紙とペンを突き返した。


宮原陸はその紙をざっと眺めて、興味なさそうに息を吐く。


「ふぅーん……」


「ふぅーんって何よ。ふぅーんって……」


「明日、あんた休み?」


紙から目線を外して、私を視た宮原陸の言葉に、少しだけ面を食らって、どもってしまった。


「え?あぁ、うん。そうね……」


「仲町公園に、9時半」


「はいはい。…………はい?」


聞き流せばいいかな、なんて考えて、適当に相槌したけれど、どうも聞き流せない話らしい。


いま、仲町公園って言った?なんで?


「……遅刻厳禁だから」


そう言い残して、宮原陸は準備室から出ようとする。


ちょっと待ったァァァァァァァァアア!?


「ちょっと!なんでよ!?」


慌てて宮原陸の腕を掴んで、問いただすと、宮原陸は怪訝そうな顔をして、さも当たり前のように言った。


「デート、に決まってんじゃん」