恋の練習屋

「……私だって、変わりたい……」


知奈にも聞こえないほどの小さな声で呟いて、大学の学食で一番おいしいと名高いオムライスを頬張った時。


「……じゃぁ、俺が変えてあげる」


「むぐっ！？ゴホッゴホゴホッゲホッ」


「美咲ぃ！？大丈夫！？」


背後からいきなり声がして驚いた結果、すごい勢いでむせた。


慌てて振り返ると、そこには何処かでみた覚えのある、ハニーフェイスの男がニコニコと笑っている。


「仲野美咲。俺があんたを変えてやる。その気になったら、ここ。来て」


「ゴホ…何言って……」


ほれ、と渡された小さな紙をみると、そこには『恋の練習屋』と書いてあった。


「恋の……練習……屋？」


「そ。あんたを待ってる」


最後に必殺技のような笑顔をして、颯爽といなくなる。


なんなんだ、あの男。頭、おかしいんじゃないの。


ていうか、恋の練習屋とかネーミングセンス無さ過ぎでしょ。


そう思いながらも、その紙を眺めると、大学にある、今は使われていない準備室の場所が書いてあり、更にあの男の名前まで書いてあった。


宮原……陸。


そうだ。思い出した。


あの男は、この大学一の変人だ。