恋の練習屋

「こ……ん……ら……た……」


「へ?知奈、ごめん聞こえな……」


「この馬鹿!!『自分がキレたら男が逃げるから』ってキレることを自重してた馬鹿はどこのどいつよ!!!」


年に数回だけ拝める知奈の般若のような形相で、背中に冷や汗が流れた。


「いやぁ……その、えっと、今日はキレても良かったと思うの」


「それはそう思う!!だから今回は許してあげる」


「ありがとう!!」


般若から天使になった知奈にお礼を言って、視線を諒とその彼女に戻す。


「さようなら」


冷ややかに二人を見て吐き捨てた。


さようなら、私の30番目の恋。


過去の自分の気持ちと諒に別れを告げると、なんだかスッキリとした。


すると、ストンと私の心に落ち着いた、宮原への気持ち。


その不思議なほどの自然な気持ちの落ち着き方に、宮原の腕を掴んだ。


「宮原!行こう」


「は?」


「ほら、早く」


「ちょ、おい。引っ張んなよ」


そんな戸惑う声なんてお構いなし。


「いってらっしゃーい」


知奈の声も背中で受け止めて、とりあえず走った。


走って、走って、この気持ちの名前を付けられるまで走って。ちゃっかり宮原まで巻き添えにして。


「……っ、あんた、運動部じゃないのに……なんで……こんなに走れるんだこのやろう」


「っは、は……わか、んない……けど、……走れた」


「子供、だ」


「童顔に言われたくないわ」


「その言葉、そっくりそのままあんたに返す」


汗に濡れた前髪をかき上げた宮原の拳に少し血が滲んでいたことを思い出して、思わずその手を掴んだ。


「なに」


宮原は怪訝そうな顔で私をみるけど、そんなのは私には関係ない。


「……ありがとう」


「……何が」


素っ気なく返す宮原だけど、きちんと私は知ってるんだから。


「私のために怒ってくれて、ありがとう」


「……別にあんたのためじゃない。俺があいつにムカついたから。それだけ」


「うん……。宮原はそうかもしれないけれど、けど、嬉しかったの」


知奈以外に私の為に怒ってくれる人なんていなかったから。私の為にあんなに取り乱してくれる人なんていなかったから。


「嬉しかったんだ……」


「……あっそ」