恋の練習屋

「馬鹿ね、私は人前で泣くような女じゃないわ」


声が震えないように努力しながら、精一杯強がる。


そうじゃないと、今にも涙線が決壊しそう。


「逆に面倒くさいな、あんた」


俺が隠してやる。そしたら、誰にも見られない。


優しくて温かい体温に包まれて、優しくそう囁かれ、ついに私の涙腺は決壊した。


「……っ……ばかっ……ズルい!」


ズルいんだよ。さっきまでありえない位の毒舌吐いてたくせに。するりと私の心に入ってきて。


弱いところなんて、彼氏にさえ見せたことないのに。


「ズルくて結構。それであんたの心が楽になるなら、いくらでもズルくなってやる」


高すぎず、低すぎない心地良い声。


勘違いしてしまいそうな、宮原陸には似合わないクサい台詞。


温かな、体温。


不覚にも、私の心は高鳴り続けている。


「そんなクサい台詞吐いて……。勘違いされても仕方ないわよ」


ここで、きっぱりと言ってほしい。「勘違いするな」と。


そうすれば、この可笑しな胸の高鳴りも一瞬の気の迷いにしてしまえる。


「あんたになら、勘違いされてもいい」


聞いたことも無い、優しげで切なそうな声音で、宮原陸は私の願いの全てをことごとく捻り潰していく。


あぁ……。もう、この男は……本当に、厄介な野郎だ。


「なに……私のこと好きなわけ……?」