恋の練習屋

いつの間にか、デートの回数も減って、キスの回数も減って、諒が『好きって言って』とねだる事もなくなった。


私は馬鹿だ。


諒の気持ちの変化にも気付かず、ただ残された温かさばかりを視ていた。


その温かささえ、ただの余韻だという事にも気付かずに。


諒が他の女と手を繋いで幸せそうに歩いていたのを見た時、あぁ、またか。となんとも思わなかった。


なんとも思わなかったんじゃないかもしれない。だけど、裏切られることに慣れすぎた私の心は、感覚が麻痺して何も感じなかった。


本当は哀しかったのかもしれない。悔しかったのかもしれない。だけど、私の心はそれを感知してはくれなかった。


だけど、目の前が真っ暗になって、それまでの彼との思い出がモノクロに変わったことだけはわかった。


涙は出なかった。浮気でいちいち泣いていられるほど、私は純粋じゃない。


諒との思い出を思い返せば、私の心も分からなくなっていて。


あれ?私、本当に諒が好きだったのかな。そうでもなかったりして。


ふふ、と笑えば、そうでもなかったりする気がしてくる。


ほら、やっぱり。だから、諒の浮気を哀しむことなんてないの。


そう考えれば、心が楽だから。


そうやって諒への気持ちを大したものじゃないように考えたのは、今思えば諒のことが好き、だったからなのかな。


好き。その一言で、私の心臓は切なく痛む。


ほら……やっぱり好きだったんだよ。


きちんと自覚して言葉にすると、すごく苦しいけれど、どこか安心した。


私、きちんと好きだった。諒のこと、好きだった。


「……好き……だったんだ……」


ぽつりと唇から言葉は漏れていた。


声にすると、さらに実感が湧いて、鼻の奥がつん、とした。


「はぁ…………」


いくらなんでも、宮原陸の前で泣くなんて真似は出来ないから、眼を手で覆って深く息を吐く。


お願い。肩が震えていることには気付かないで。


そんな願いも虚しく、宮原陸は私の隣に座って、私の頭を自分の肩に引き寄せた。


「……泣けばいい。我慢するもんじゃない」