聞けば優聖はどうやら高校でも早々にモテま
くってるんだとか。なんでも既に3年生の先輩の一人から連絡先を聞かれたらしい。
すごい。すごすぎる。そんな人が身近にいるなんてすごすぎる。まるで少女漫画に出てくる人物じゃないか。すごい、すごすぎる。
優聖のモテモテ話を一通り聞いた葉月は何故か両手を擦り合わせてブツブツと独り言を呟く。
途中、ひまりに「しっかり、はーちゃん」と肩を叩かれ我にかえる。
「でも成瀬、女子にモテるのにも関わらずいっつも澄まし顔で、ふ~んみたいな感じなんだよ!そこが腹立つわぁ。余裕です~みたいな!」
「自分がモテないからって僻むなよ。それも異性に」
「うるっせ!」
普段なら優聖は、なんというかポーカーフェイスに近いというか。涼しげというか。もちろん笑うこともあるけど。
言うなら、クール。という感じだ。
まぁチャラチャラしてるよりは全然、全っ然いい。
それだけモテるなら、さぞかし女の子には困らないだろうなぁ。なんて思う。
きっと優聖のことだ。とびっきり可愛い女の子と付き合うんだろう。
そう思いながら彩音とひまりを見つめた。
「え、なに?どした?」
「はーちゃん?」
「あ、うんん!なんでもない!よし、勉強続けよう」
「えーー気になるんですけどぉ」
「いいからいいから」
可愛らしいひまり。美人な彩音。この二人のどちらかと付き合ったりとかするのかもしれない。これは言ったらなんだか物凄い反論されそうだから、葉月の心の中で留めておいた。
この勉強会の後、そんな優聖の家に招かれているということも、言わないでおいた。
***
「……ほんとにいいのだろうか」
三時間のみっちり勉強会コースを終え、3人と別れた葉月はそのまま優聖の家へ向かい、到着してしまった。
勉強はしないと言う。呼ばれた理由がいまいち…というか全く分からないが、来いと強めに言われてしまったので来てしまった。
来ないと来ないで後で何を言われるか分からないし怖いし。
どうしたものかと思い悩んだ末、意を決してインターホンを押した。
「はーい!…あら、葉月ちゃん!」
「あはは…こ、こんにちは」
開いた玄関から出てきたのは優聖の母だった。
優聖から聞いていたのだろう。陽気な声で中へ招き入れてくれた。「おじゃまします」とおずおずと中へ入れば、「ワンワン!」と元気よく駆けてきた成瀬家の愛犬、マル。
葉月はパァッと笑顔になり、しゃがんで床に膝をついてマルを抱えた。
「マル~!元気だったー?よしよし、いい子だねぇ」
「随分懐いてるわねぇ~!良かったねぇマル」
すっかりマルに懐かれた葉月を見て、優聖の母も嬉しそうに頬を緩ませていた。
葉月はそこでハッとして、マルを床に降ろし立ち上がる。
「あの、ごめんなさい!突然お邪魔して…それに今日何も持ってきてなくて」
「え?やだぁ、いいのよ全然気にしないで!優ちゃんから聞いてたから大丈夫よ~。優ちゃんもすっかり葉月ちゃんに懐いちゃってもう~~」
「そうなんですかね…」
懐いているのかどうかは何とも言えないけれど、少なくとも好かれてはいるんだろうなとは思う。もちろん、人間としてって意味で。
「最近のあの子、楽しそうにマルの散歩行くからどうしたのかしらーって思ってたの。そしたら、葉月ちゃんだったのね~~ふふふ」
「成瀬君……優聖君とは仲良くさせてもらってます。同じ愛犬家ということで、色んな話もしてますし!」
「そうなのね!これからも仲良くしてやって!ちょっとツンケンしてるけど、悪い子じゃないから」
それはじゅうぶん分かる。こんな素敵な人がお母さんなのだから、悪い子になんてなるはずないだろう。
優聖と一緒にいてそれは分かる。
「今ね、優ちゃん出掛けてて…私が夕飯の買い出し頼んだのよ~。だから帰ってくるまであの子の部屋で待っててくれる?」
「え、でも勝手に…」
「いいからいいから!平気よ!全然寛いじゃっていいからね~」
そのままグイグイ背中を押されてしまったので、申し訳ないと思いながらも「お言葉に甘えて」と小さく頭を下げ、渋々優聖の部屋がある2階へと向かうのだった。
