純情女子と不良DK



 月曜日、午後4時。
葉月は妙にソワソワしていた。何故って?そりゃあ、もちろん優聖と二人で勉強するという約束があるからだ。何をそんなに緊張しているのか。デートじゃあるまいし。好きな人でもなんでもないし。
葉月にとって異性と二人きりになるのは慣れていないことなのだ。洋平は別として。

 学校が終わり次第、連絡をするって言っていたし…土曜日の勉強会の後「明後日」って言ってたからつまり月曜日である今日がその約束の日。
そろそろ連絡が来る頃だろうか。時計を何度も見たり携帯画面を見たりと忙しい。
いつ連絡が来て、いつでも出れるようにもう着替えも済ませてる。参考になるかもしれないと思って過去の問題用紙と勉強ノートも鞄に入れた。

準備は万全である。


(成瀬君、まだかな)


 学校終わってすぐこっちに連絡して勉強、なんて確実にできることじゃないかもしれないし。
もしかしたら友達と話したりどこか寄ってたりするかもしれない。見た感じ友達は多そうだし、あのルックスだ。女子とか放っておかなさそう。…不良っぽいし。


(いかんいかん!時間があるなら、どれをどう教えるか私も予習しとかなきゃ)


 連絡が来るまで自分は自分のやれることをやろう。
確か優聖は理系は割と得意だって言っていた。数学などは問題ないだろう。そうしたら、古典とか…世界史だろうか。苦手そうだ。
ちょうどその時、携帯の着信音が鳴り思わず肩が跳ね上がった。慌てて携帯を手に取り画面を見れば優聖からだった。


「あっ、もしもし!」

『うす。日高さん今日の約束、覚えてます?』

「うん、うん。もちろん。勉強見るって約束でしょ?」


 電話の向こうにいる優聖の声。そして周りのザワザワと賑わう声。
学校にいるんだってことがすぐに分かった。そして電話がかかってきたことで、本当に今日やるんだと思ってしまった。もちろん、一昨日同様にしっかりと教えるつもりだ。



「もう学校終わったの?」

『はい。ちょっと担任に捕まってやっと解放されたとこで』

「え、何かしたの…?」

『んーまぁちょっと。反省文を』



 反省文……。
自分は高校生活ではそういったものには縁が無かったなぁ、と思い優聖が何をやらかしたのかと気になった。



『んな事より、日高さん今日大丈夫なんですよね』

「うん。もう準備は済ませてるしいつでも出れる!どこに行けばいい?」

『んー。駅周辺のファミレスとかでやろうかと思うんですけど。とりあえず、そっちまで行きますよ。あの橋んところとかは?」


 橋、とはドッグランドのすぐ近くにある“枢木橋(くるるぎばし)”のこと。
学校からここまで来るよりも駅の方が近いはず。わざわざここまで来てくれようとしている優聖に、それは申し訳ないと首を横に振る。



「いいよいいよ!そこからだと駅に向かった方が近いでしょ。私も今から向かうから」

『あ、そっすか?じゃあまたこの前と同じ場所で待ってるんで』

「うん、了解!」



 通話はそこで終わった。
さて、さっそく駅へ向かわなければ。あまり待たせるわけにもいかないし、自転車で行こう。