純情女子と不良DK



「ただいま~」

「あら、どこか行ってたの?」

「うん、勉強を教えに」



 そういえば家を出る時、母は友達とランチしに行ってたからいなかったんだった。
母の顔には“勉強?誰と?なんの?”と言いたげな顔でこっちを見ていた。まぁそりゃそうなる。
学生でもないのに勉強を?ってなるだろう。



「ちょっと後輩にね」

「へぇ、珍しい!部活の?」

「うんん、全然違う。最近ドッグランドで知り合った子なんだけど、その子がまさかの南扇でね。テストやばいらしくて。それで勉強教えに行ってたんだ」



 そう言った葉月に母は驚いたように一瞬目を丸くした。
その反応も葉月には想定内だったようで、小さく苦笑いを浮かべた。
勉強なんて元々教えるつもり無かったようなものだったし。渋々承諾したようなものだったし。うん。
 結果、なかなか楽しかった……と思う。
それは表情にも出てたいうで、母は「ふーん」とニコニコ微笑みながら葉月を見て「まぁ先輩としていいことしたじゃないの」と言った。
これがちゃんと彼らにいい結果となればいいんだけど、と葉月は思う。



「じゃあ部屋戻るね~。夕飯の時間になったら呼んで」

「それが今日まだ何にするか決めてないのよねぇ…葉月作って~?」

「今日はお母さんの当番でしょ。頑張れ!」

「ええ~」



 夕飯は当番制。今日は母が作る日だ。決まり事は決まり事。
母にエールだけ送って葉月はそのまま自室へ向かった。


「ふぅ」




 どうなるかと思ったけど、なんか意外と普通にいけた。
最初は優聖と二人きりで勉強とかどうしようどうしようなんて考えてたけど、予想外に彼の友人達も着いてきたリして。内心少しホッとした。
自分が現役高校生だったらきっと仲良くしていなかったであろう部類の子達だ。
それぞれ性格は違うけれど、学生特有のテンションで何だか懐かしく感じる半面、老いを感じるような…そんな気持ち。



「いや私もまだ全然若いんだけどね…」



 とは言え、あの子達を見ていると高校生に戻りたい欲が強くなってしまったわけである。いいなあ高校生、なんて。
ま、今のこの平穏な時間も悪くないからこれはこれでいいんだけど。と、部屋着に着替えようとしたところで携帯の着信が鳴った。
誰だろうか。大抵、よく自分に電話をかけてくるのは花と洋平のどちらか。飲みのお誘い電話かな、と思いながら携帯を手に取って画面に映る名前を見た途端、カツーンとそれを床に落としてしまった。


「え、どうしよう…」


 慌てて拾うも、電話には出ない。
画面には、“成瀬優聖”の文字だ。連絡先を交換してからメールは頻繁に来てたけど電話は初めてだったので何故かパニックになった。
どうしようどうしようとアタフタしていると着信は切れた。…そしてまた鳴った。もしかして何か忘れ物でもしたのかもしれない。それで電話をしてきたのかも。
優聖の家に忘れ物をした覚えは無いと思うけれど。とにかくそろそろ出ないと申し訳ないので、葉月は恐る恐る電話に出た。



「もしもし…?」

『おせぇ』

「え!」



 第一声がそれ!?
思わずつっこみたくなった。でも別に怒ってるような感じではなく、どちらかと言えば拗ねたような…そんな雰囲気に感じた。咄嗟に「ごめん」なんて謝ってしまった自分は年上としてどうなのだろうか。いやでもさっさと出なかった方が悪いのか。…ん?
ちょっとよく分からなくなってきた。



「えーと、どうかしました?私そっちで何か忘れ物でもしちゃってた?」

『いや別になんもないですけど』

「…そっか」

『はい』

「……えーと?」



 どうやら忘れ物ではないらしい。なら良かった。
…じゃあ何のために電話をしてきたのだろうか。なかなか用件を言わない優聖に小首を傾げる。



『今日、なんかすいませんでした』

「?」

『なんも伝えないで急にアイツら来てびっくりしましたよね。アイツらうるせーし馴れ馴れしいし』