「ていうか日高さん、上司殴ってクビになったんすよね?て事は今なんか別の仕事とか?」
「あー…それが、その話ほんとつい数週間ぐらい前で真新しい出来事なんだよねぇ…」
つまり、絶賛ニート中なんです。
肩を落としながら言い難そうにそう言葉にした葉月に良介は「まじすか!つえー!」なんて言う。どこら辺が強いのか教えてほしい。
「いいなぁニート。私将来ニートになりたいわ。ずっと家で寝てたい」
「わかる~!なんもしたくないよね!」
「ニートだけはやめた方がいいよお嬢さん達…。私ほんと後悔してるんだから。腹が立ったとはいえ、自ら職をなくすようなことしなくても良かったのに……」
「ま、まぁまぁ日高さん大丈夫ですって!また次がありますよ次が!」
「そうそう!二十歳でしょ?まだ若いしいける!」
なんだろう、なんか、うん。
四つも下の高校生3人に励まされる二十歳って正直どうなの。
葉月は複雑な気持ちになりつつも、懸命にフォローをしてくれる3人に素直に嬉しくも思った。本当、結構いい子達だと思う。
私は一生働きたくないと、虚ろな目で言うひまりに「しっかり」と今度は葉月が励ました。
まぁでもニートは1か月まで、と自分で期間を決めているからずっとこのままでいるつもりは無い。再就職はまだ考えていないから、アルバイトでどこかいいところをそろそろ探さないといけないわけだ。
「なんかいいバイトないかなぁ~」
「あ!ならあたしんとこ来る!?はーちゃん来たら嬉しい!」
葉月が呟くと、途端に目を輝かせたのが彩音だった。
ああ、なるほど。こういう子達に紹介してもらうっていうのも一つの手か。どんなバイトかな、と聞こうとすると、ひまりは勢いよく首を横に振った。
「ダメ!はーちゃん、ダメ!」
「え?」
「日高さん、コイツ働いてるとこメイド喫茶っすよ!」
「…え?」
「はい!萌え、萌え、キュン!」
「ぶっは!超きもい!」
「まじウケる!」とお腹を抱えて笑いだす良介に彩音は眉間に皺を寄せながら「失礼じゃね?」と良介の二の腕を叩いた。
どうやら彩音のバイト先はメイド喫茶らしい。
「あ…うん…メイド喫茶か…ちょっと私には無理そうだなぁ」
「私も誘われたけど、今みたいなの絶対できないから無理」
自分がメイド服を着ている姿を想像しただけで寒気がするというひまりに、葉月は苦笑いを浮かべながら頷いた。けれど、ひまりも彩音も可愛いから似合いそうだなぁなんて思った。自分は……想像もしたくない。
次の職場は自分で探すと言えば、彩音は「ちぇー」と口を尖らせた。
「てか、はーちゃんの連絡先知りたい」
ふいに、ひまりがスマホをポケットから取り出しながらそう言った。
そんなひまりに、彩音や良介も便乗するようにあたしも俺もと口を揃えた。
もちろん、断る理由は無かったので葉月は笑顔で頷いた。ここで出会ったのも縁だ。
何しろ、彼女達は気さくでいい子だし結構話しやすいし。
何となく、本当に何となくだけど、多分これからも接点があるような…そんな気がするのだ。
