純情女子と不良DK



「やっほ~。勉強は順調にやってる?」


 開いた扉から入って来たのは、優聖の母だった。
「ロールケーキを持ってきました~!」と、ジャジャーンと効果音が付きそうなテンションで言う。
良介を筆頭に、「よっしゃオヤーツ!」とこれまたテンション高めで口々に喜びをあらわにしていた。
いやどんだけ嬉しいんだよ。思わず心の中で突っ込む。



「今日は頼もしい先生が来てくれたんだから、みんなちゃんと勉強するのよ~」

「大丈夫ッス!日高先生めちゃめちゃ教えるのうまいんで!」

「せ、先生って…」

「あら、なら安心ねっ」



優聖は理数しかできないから~とか、他はてんでダメダメで困るのよ~とか色々言い始めるその様子に優聖が痺れを切らしたように、母の背中をおして部屋から追い出そうとした。



「勉強の邪魔になるから出てって」

「えー、優ちゃん冷たーい!」

「そうだぞ優ちゃんお母さんにもっと優しくしろー」

「そうだそうだ優ちゃん」

「お前らまでその呼び方すんのやめろキモイ」



優ちゃん優ちゃんと連呼されて心底ウザそうに眉間に皺を寄せるその顔はまさにどこぞに不良兄ちゃん。
ついつい自分も“優ちゃん”と呼んでみたくなったが、今の優聖の顔を見てその言葉を飲み込んだ。
ロールケーキを食べながら勉強を再開するのだった。



**



「はぁー!つっかれたぁ~!超勉強した!もう優等生!」

「俺もやべーわ。今なら東大とかいけそうな気がする

「こんぐらい勉強したぐらいで優等生なら多分世の中みんな優等生だし東大はお前無理すぎ」

「成瀬お黙り」



 夕方になり、すっかり外はオレンジ色になった頃。
勉強もキリのいいところで終わることができた。脱力したようにその場に寝転ぶ彩音達に葉月は思わず小さく笑った。
彩音と良介が疲れ切って脱力している一方で、ひまりは未だに熱心にノートと向き合っていて、この中で一番真面目だなと再確認した。



「ひまりちゃん、どう?大丈夫そ?」

「…あ、うん。はーちゃん教え方上手いから結構いける気がする」

「それは良かった!私も教えたかいがあったよ」



 
元々勉強は苦手じゃないし、高校時代もこうして友達の勉強を見ることもあった。
自信をつけたような表情の彼女達に、葉月も嬉しくなる。



「ってことで、お前らもう帰れよ」

「えー!ここはそのまま流れで優聖ん家に泊まりってパターンだろ~?」

「はっ?」

「それいいわ~!夜通し勉強?ぶっちゃけトークとか?」

「ナイスアイディア」



 帰れと言う優聖に対して、好き勝手にあれこれ提案して話しを進める彩音達。
いやいやさすがにそれはダメでしょうと思いながら葉月はチラリと優聖を見る。
その額に筋が浮かんでいて、口もとも引き攣っていた。あ、これ怒ってる…。
次の瞬間、優聖のドスの効いた低い声が響く。



「いいから帰れ、さっさと、はやく」



そんな優聖に彩音とひまりと良介は声を揃えて「はぁい」と渋々返事をした。
葉月は、まるで親に敷かれてる子供みたいだなんて、そんなことを思いながら小さく笑った。