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「うおおお!日高さんの説明分かりやす!!」
「あたしこれなら赤点回避できそう…」
「はーちゃん、これ答え合ってる?」
数学の勉強初めて一時間半ほど。
分かった事は、みんな案外やればそこそこできる子だという事だった。やろうとしないだけで、ちゃんと真面目に勉強に集中すればちゃんと理解してくれる。
底なし沼のような出来の悪さを想像していたので、少し安心した。
「あ、ひまりちゃんそれはこっちの公式使った方がはやく答え出せるよ!」
「なるほど」
「これ俺の出る幕無くね?」
三人の勉強は全て葉月が見ている状態になってしまい、優聖は自分が教えることは無いなと判断して別の科目をやり出した。
そんな優聖を見かねてか、葉月が声をかけた。
「成瀬君は数学どこも分からないところないの?」
「ん。俺数学ほんと得意だし。あと物理とか」
「理系なんだね!」
私はどちらかというと文系だなーと言うと、逆に文系科目は苦手だと眉を寄せながらそう言う優聖。
「みんなクラス一緒なんだっけ?数学って先生誰が担当してる?」
「西川先生~」
「…え!西センなんだ!」
「はーちゃん知ってるんだ?」
「うん!三年間西センが数学担当で、毎回数学の時間になると憂鬱になってたなぁ…懐かしい。まだいるんだね」
彩音の口から懐かしの名前聞いて、自分の学生時代を再び思い出す。
西川先生、通称“西セン”はとにかく厳しくて毎回授業の終わりに難問の課題を出してくるのだ。みんなそれが嫌だ嫌だって嘆いていたっけ。
「西川先生、超厳しいよね!あたしあの人に絶対嫌われてる自信あるわ。いっつも睨んでくるし怒るし!」
「そりゃお前、授業でイビキかいて居眠りするからだろー」
「塚本だってたまに寝てるじゃんっ」
「お前の場合、数学だけいつもじゃん」
「……」
あの西センの授業を、イビキかいて居眠りとは……とんだ強者だ。
だってあの先生嫌いだしぃ~、と言って口を尖らせる彩音に思わず苦笑いが零れた。あの先生を好きだと言う人がいたらびっくりだ。
「担当が西センなら、教科書の問題からテストに出すこと結構あるよ。えーと、西センの事だから…」
「お、おお!熟知しているのか!どの問題出る!?どの問題出る!?」
三年も西センだったんだ。あの先生が出しそうな問題、要点などはまぁ彩音の言う通り割と熟知している…つもりだ。
教科書をぱらぱら捲りながら、重要だと思う箇所をいくつか探す。
優聖も他の科目をやっていた手を止め、こっちを見て来た。
「あ!これ!多分この問7の文章問題と似たようなもの出ると思う。後、こっちの問1の計算問題ほぼ出してくるかも。それとこのページの公式は絶対覚えた方がいいよ」
「ちょ、日高さんもっかい。印つけとく」
つらつらと早口で言う葉月に優聖は閉じていた数学の教科書を開いてペンで印をつけていく。
ひまり達も慌てて教科書に線を引いたり印をつけていった。
「すごい助かるわ。はーちゃん私達の救世主だね」
「俺今回いけそうな気がする!数学だけ!」
「他も頑張れよ」
「とりあえず、他の科目も要点とテストに出そうなとこまとめて教えちゃうね」
「神か!!」
「一応人間です」
こうも褒めまくられると照れくさい。
とにかく、時間も限られているし出来る範囲で他の科目も教えていこう。
それじゃあ次は古典にいこうか、となったところで部屋の扉が開いた。
