「そんじゃあ二人はそのドッグランド絡みで知り合ったわけか~!なんだぁ、成瀬の彼女じゃないのか~。……ちっ」
「今舌打ちしただろ」
「はぁ、つまんな~い!」
「帰らすよお前」
期待外れとでも言うように口を尖らせる彩音に優聖は額に筋を浮かべた。
帰れと言われて素直に帰る奴なんかいるものか。と彩音はべっーと舌を出す。
彼女だったらとことんからかってやったのに、と言葉をもらす彩音に葉月は思わず口元が引きつった。
面倒な冷やかしだけは勘弁だと思った。
「日高さ……はーちゃ、…日高さん」
「あははっ。ひまりちゃん、はーちゃんでもいいよ?」
どっちで呼べばいいか躊躇っているひまりに思わず笑ってしまった。
彩音とは違って少し遠慮する部分もあるらしい。
「では、はーちゃんで」とどこか嬉しそうに言う彼女に、可愛いなぁこの子…とほっこりしているのも束の間。彼女の何気ない質問に一気に表情を強張らせることになった。
「はーちゃんって大学生?それとも、もう社会人?」
「…………」
ピシリ、と体が石のように固まったような気がした。
こんな質問、来ないなんて言いきれるはずがなかったんだ。そりゃ、彼女達よりも年上な自分。何をしている人間なのか気になって当たり前じゃないか。
すっかりそんな事なんて頭に入っていなかった。
動かなくなった葉月に、一同は顔を見合わせて何かまずいことでも言ったのだろうかと小首をかしげた。
「……おーい、はーちゃん?」
「…は!!」
「あ、戻って来た」
顔の前に手をぶんぶん振られ、葉月はようやく我にかえった。
会社の上司を殴ってクビになって只今無職のニート中。なんて、会ったばかりの人たちに言えるだろうか。
……うんん。待てよ。会ったばかりだからこそ、別に言ったっていいのでは?
葉月の中でぐるぐると色んな考えが巡る。
「大学生っしょ~!なんかそんな感じするし!」
「今時大学生って感じだな!」
「それそれ!」
今時大学生?私が?
思わず鼻で笑いたくなった。そんな華々しいもんじゃないってのに。
ついには、膝の上で拳を握り俯きだした葉月。彩音達は「えっ」と声をあげて固まった。
優聖が心配になり、葉月の肩に手を置いた。
「日高さん?気悪くしました?」
「……一応、社会人…」
「え?ああ、そうなんすか」
ボソボソと小声で言う彼女を不思議がりながらも、相槌をうった。
「へー!!社会人!大学生じゃないんだ?」
「社会人…………でした」
「……ん?」
「でした…?」
何故か過去形で言う葉月に、三人は目を眉を寄せた。
そしてようやく俯いていた顔を上げた葉月の目には魂が宿っていなかった。
「実は、会社の上司を殴ってクビになったんです……」
しばらくの沈黙の後、三人の驚く叫び声が響き渡った。
