「で、どこで勉強する~?勉強会っぽく図書館とかどーよ!」
この中で一番テンション高めな、彩音が楽しそうに言う。
本人いわく、なんかこういうの初めてだからめっちゃテンション上がる…だそうだ。
「図書館とか喋れないじゃん」
「ひまりさん、図書館は喋る所じゃないかんね!」
「つーか、普通に優聖の家でいいんじゃね?」
「…はっ?」
「あ、それナイスアイディア!お菓子買って食べながらとかっ」
淡々と話しが進んで行く…。
しかも優聖の家ときた。葉月は普通にファミレスとか、それこそ今さっき案に出た図書館でやるのかと思ってたので、優聖の家という案が出た瞬間焦った。
まだ知り合ったばかりの人の家に、しかも今知り合ったばかりの彼女達と…。
「なんで俺の家なんだよ…。ファミレスとかでいいじゃん」
「わ、私もファミレスでいいと思うよ!喋っても大丈夫だし!」
優聖に便乗するように葉月は何度も頷きながら言った。
「えー、でもうるさくて勉強集中できなくなーい?」
「お前どっちなんだよ」
「成瀬の家とかちょっと気になるし、いいじゃん!」
「いやだからぁ」
「よーし、そうと決まれば優聖ん家へGO!」
「GOじゃねーし、人の話聞けし。……はぁ」
優聖の家なら俺知ってるから、と張り切りながら進んで行く良介の後を彩音とひまりがノリノリで着いて行く。
疲れたように溜め息をはく優聖に葉月はさすがに同情してしまった。
なんというか、言ったら悪いがこういう人達と毎日いるのだろうかと思うと疲れそうだ。
「…あの、成瀬君。お家はさすがにまずいよね。親御さんとかに迷惑だし…」
「あー、いや…別に迷惑ではないっすよ。良介とか結構アポ無しで来ること多いし」
「え、そうなんだ?」
「ただ、うるせー馬鹿三人もってなると…勉強になるかどうか…。特に神田」
神田って誰だ?と思いながらも、葉月はただ苦笑いを浮かべた。
優聖は意外と苦労人だったりするのかもしれない。
「日高さん大丈夫ですか?」
「なにが?」
「いや、家行くの。ぶっちゃけまだそんな親しくない奴の家で勉強とか気乗りしないっすよね。俺やっぱ無理って行ってきます」
「あー!や、大丈夫!平気!」
「……そうですか?」
自分一人の我儘でみんなを振り回すのもどうかと思った。
家はさすがに、いきなりどうかとは思うけどこうもみんなノリノリになってしまったんじゃあ、仕方がない。
耐えきれなくなったら早めに切り上げてさっさと帰ればいい。
「迷惑じゃなければ…」
「そこはホント心配しなくていいですよ」
「…あっ!じゃあ何か差し入れを…!」
「え?いやいや気にしなくていいです」
「ダメだよ!ましてや初めてお邪魔するんだから、こういうのはちゃんとしないと。ちょっと待ってて!そこのスーパーで何か買ってくるから!すぐ戻るから!」
「ちょ、日高さん!」
呼び止める優聖の声を無視して葉月は一目散にすぐ近くにある駅前のスーパーへ駆け出した。
ぱたぱたと走って行く葉月の後ろ姿に唖然とする優聖だったが、やがてブッと吹き出しお腹を抱えて笑った。
良介達はなかなか追いついてこない優聖達を不思議に思い振り返った。が、一人で笑う優聖を見てギョッとする。
「おーい優聖~、何やって…って、一人で笑ってるけど何!怖い!」
「あれっ、あの子いないじゃん!えーと日高さん。どこ行った!?」
「悪い悪い。日高さんはちょっとスーパー寄ってる」
「なんで?」
「家に差し入れ買いたいんだと」
「わ!真面目!えらっ。それ考えてなかったわぁ」
「うん。だから少しだけ待って」
まぁ、葉月からしたら自分らなんて全然子供だと思ってるだろうしその辺しっかりしてるのなんて当たり前なんだろう。
別に気にしなくていいのに、慌てて駆け出す彼女をまた思い出し小さく口もとが緩んだ。
