結局昨日、優聖から来たメールは返信できないまま今日がきた。
いつものようにポン太を連れてドッグランドへ行けば、そこには数日間来なかった優聖がいて、驚いてポロッとポン太のリードを放してしまった。
同時に真っ先にみんなのいる方へ走り出すポン太。
「おおっ、ポン太元気にしてたかー?よしよし」
すっかり顔を覚えたのか、優聖にも懐っこくすり寄るポン太。
優聖は嬉しそうにその頭を撫でた。
そして立ち上がり、葉月の方へ視線やる。ばっちりと目が合い葉月はハッとした。
「日高さん、んなとこで何ボーと突っ立てんですかー。はやくこっち来ればー」
「うぐ…」
葉月は渋々、みんなの集まる場所まで歩いた。
こんにちは~、といつものメンバーに挨拶をしつつもその目線は泳いでいる。
何を動揺してるんだ。これは好都合じゃないか。今この場に優聖がいるなら、直接断れるしラッキーというべきだ。
何も後ろめたさを感じることはない。よし。
自分に言い聞かせるように暗示した。
「日高さん、昨日のメール見ました?」
(うおおおっ、いきなり聞いてきた…!)
「あ、う、うん。見た」
「ちゃんと返信してくださいよ」
「忘れてた…」
「勉強教えてください」
「………」
再び、勉強教えてくださいコール。
「日高さん、南扇の先輩なわけだし」
「いやぁ、そうだけど…」
「俺、超バカなんで勉強全然できないんですよ。家で勉強してても一人じゃ分んねーし俺の周りも馬鹿だしで。日高さんしか頼れないっつーか」
「…赤点一枚でも取ったら補習だよね」
「はい」
「南扇、補習めっちゃ厳しいよ…」
「それは知らなかったっす。補習やなんで教えてくれませんか勉強」
一応、後輩にあたる子だ。
そんな後輩からの必死の頼み。いや、別に必死でもないけど。
「…でも私もそんな頭よくないから」
「え!葉月ちゃんすごく勉強できるじゃない!」
「え」
「うお、まじっすか…!」
二人の会話を聞いていたおばさんの一人が言った言葉に優聖は目を輝かせた。
一方、葉月は顔を青ざめている。
「ほんとほんと~!葉月ちゃん、学生時代はいつも試験後にここ来るたんびにテストの点数自慢してたもの~。ねぇ葉月ちゃん」
「川野さん余計なこと言わないで~…!」
「え?どうして?誇らしい話じゃない」
うわぁぁ、これはもう断れなくなりそうだ…。
葉月は頭を抱えたくなった。
「じゃあさっそく今週の土曜とかどうですか」
「いやあの私まだ勉強教えるとは言ってないん……だけど……うん、もういいや…土曜で大丈夫です…」
この断れない空気というか圧力みたいなものを感じて、もう頷く他無かった。
二人で会うっていったって勉強を教えるだけだし、構えることなんて無いだろう。
