「こん中誰も勉強できる奴いないしさぁ」
「吉村さんは?あの人、確か生徒会だよ」
「え、やだよあんなガリ勉優等生に教えてもらうの?無理無理!」
「俺、先輩に教えてもらおっかな」
「あー!塚本ズリー!あたしもー」
「いやお前関係ないじゃん!」
頼みの綱が思い当たらない一同。
優聖はめんどくさくなってスマホをいじり始めた。
そしてなんとなくメールBOXを開く。ほとんどが中学からの先輩だったり高校の友達だったりする受信履歴の中に最近アドレスを交換した葉月の名前もあった。
あの日彼女を見かけてから、中学時代ぶりに興味半分でドッグランドへ顔を出してみた。これがまたちょっと面白い子で、いじりがいのある少女。
別に赤点を取ろうがどうだっていいけれど、補習になって彼女に会えないのは少しつまらないような気がした。
ここ数日だってあのドッグランドには行けてないのだから。
そういえば葉月もこの学校に通っていたと話していた。
(………ん?)
そこで優聖は、ふとあることを思いついた。
いや、最初からそうすれば良かったじゃないか。
そうだ。葉月はこの学校の生徒だったのだ。これこそ頼みの綱だ。
「いたわ。勉強教えてくれそうな人」
急にガバッと起き上がって、どこか目を輝かせながらそう口にする優聖に3人は一斉に彼へ視線を注いだ。
そんな3人へ、任せろと言わんばかりに優聖は親指を立ててみせた。
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「葉月~、なんか携帯光ってるわよ~」
「え?あ、ほんとだ。多分なんか通知だと思う」
家の洗濯物を取り込んでいたところで、台所から母から声がかかり携帯を手に取る。
(…あ、成瀬君からだ)
数日ぶりの優聖からのメール。ここ最近はドッグランドに来なかったしそれ関係のメールかもしれない。そう思いながらメール画面を開いた。…が、そのメール文を読んだ途端に携帯を落としそうになった。
《勉強教えてください》
それだけ書かれた文字。
(べ、勉強……なんで急に…?)
そう思ったところで、ハッとした。
そうだ。そういえば、今の時期って確か中間テスト…。
……ああ、なるほど。
葉月は顎に手をやり納得したように頷いた。
ここ数日ドッグランドに来なかったのは、試験が近くて勉強してたからか。しかし見るからに勉強なんてしなさそうなのに、意外と真面目君だったのか。
やっぱり人は見かけで判断するものじゃないな、と何度も頷いているところで我にかえる。
「勉強教えてください……って、…ふ、二人で…かな」
だとしたら困る。とても困る。男の子と二人だけで会うとか正直気まずいし例え勉強を教えるためとはいえそれは無理だ。
(成瀬君には申し訳ないけど、断ろう…)
でもどうやって?
なにかいい断り方は無いだろうか。
結局なんて返信したらいいのか分からず、1日が過ぎてしまった。
