純情女子と不良DK



「葉月、まだどっかバイトしないの?」


一通りメールのやりとり終えた頃、花が煎餅を口にくわえながら思い出したように言った。
その質問は葉月は、うーんと唸り床に寝転んで天井を仰ぐ。



「来月までには何かしようと思ってる。いつまでもこのままじゃダメだしねぇ」

「まぁそうだよね。再就職…は、しないんだったね」

「……今は考えてないな」



 これからの事を考えれば、やっぱり就職はしておく方が一番なんだろう。
けれど、今の葉月に再就職という考えは無いに等しい。
高校卒業してからの一年間、ほぼ休む暇なく働いてきた。就活だって、何社も何社も受けてきた。
心が折れそうになるようなそれを、また始めようだなんてする気力は今は無いのだ。
花はそんな葉月の心情をよく分かっていた。



「葉月、パソコン得意だし事務系のバイトすれば?」

「うん。私もどうせやるなら特技活かせるようなのがいいなって思ってた」

「うちのショップで働く?バイト募集してるよっ」

「それは遠慮しておく」



携帯詳しくないし、と言う葉月に花は「ちぇ」とつまらなそうに言った。



「詳しくなくても入れば分かるようになるって~。葉月、頭いいしいけるって~」

「でも携帯ショップはいいですぅ。普通に事務だけでいいですぅ」

「ま、でもはやくどっかバイトしないと出会いが無くて干からびるよ~」

「ええ…そっち目当て?別にそういうのはいいよ…私、恋愛とか向いてないし」

「向いてないとかじゃなくて、臆病すぎなんだよ!日高葉月!」

「急にフルネーム」



 突然フルネームで呼んで、ビシッと葉月を指差す花に何だか自然と姿勢が正される。
なんだこれ、と思いながらも「なんかごめんなさい」と謝ってしまった。



「でもそんな男子とかといっぱい話す機会なんて無かったし…そう言われましても」

「実際アンタに気のある男子、何人かいたんだよ!?」

「え、そ、そうなの?」

「そうだよ!」



 花の発言に、葉月は思わず持っていたお菓子の袋をポトリと床に落とした。
告白なんてされたことが無かった自分に、好意を持っている男子が…いた?
信じがたい事実だった。



「あたしに、なんとか葉月と話せるように接点つくってくれって言われることもあったけど、そんな根性無しの男子に葉月をやるかって思って断ってた」

「……それ、花が全部チャンスダメにしてるんじゃ…」

「なよなよ系男子が好み!?」

「いえ好みじゃありません…」

「でっしょ?」



 もっとこう、イケイケな感じの人とかだったら喜んで協力してたけど!という花に、いやイケイケ系もどうかと…と言いそうになった。
けれどそんな話は今まで知らなかったので、少し驚いていた。
まぁ最も、葉月自身高校時代に特に気になる人とか好きな人とかそういう人はできなかったから、文句を言われてもどうしようも無いのだけれど。


「…まぁ一番は佐久田の存在が大きいのかもね」

「洋平?」


 洋平の名前だ出て来たことに葉月は小首をかしげた。


「唯一男子に心開いて仲良くしてたの、洋平だったでしょ。だから葉月に気があるって男子も洋平がいたから近づきにくかったんじゃない?一部は、アンタらが付き合ってるなんて噂してた人達もいたみたいだし」

「待って全然知らない!」

「知らなくて当然よ。その噂広がらないようにあたしが口封じしたんだから!噂広まって葉月が嫌な思いしたり学校に居づらくなったら困るでしょ」

「花、かっこよすぎだよ……」


 これは高校を卒業してから言えることなんだろう。
今になって知る事実にやっぱり驚きをかくせない。それにしたって花がそこらの男よりもかっこよく見えてしまって仕方ないのだが。



「ちなみに何て言って口封じを?」

「ちょっと脅しただけだよ」

「……」



葉月は思った。絶対に花を敵にまわすものではないと。
花と友達で良かったと改めて思った。





「彼氏欲しくなったらいつでも言ってよ。あたしの職場、イケメン結構いるから合コンの計画立てるよ!」



 得意げに親指を立てながら言う花に葉月はあからさまに嫌な顔をした。



「いいよ別に…。そういう出会い方理想的じゃないもん」

「少女漫画の読みすぎには注意だよ。現実は違うんだから」

「う、うるさいな!夢くらい見たっていいでしょ」


 目を細めて、葉月の部屋にある少女漫画が並べられた本棚を指差す花に葉月は顔を赤くする。
別に漫画みたいな出会い方とか恋愛とか、そんなのが現実で起こるなんて思ってない。
そんなことがあったらいいな~程度だ。
ただ合コンとかそういうのがあまり好ましくないだけだ。


「ま、葉月は超純粋純情で初な乙女だからそういうの苦手なの分かってるから」

「やめてその言い方なんか恥ずかしい」