純情女子と不良DK



 ぴろりろりん、とスマホが鳴る。
夜、お風呂から上がった葉月は自室で髪の毛をタオルで拭きながら、なんだろうと思いスマホを手に取りベッドに腰かけた。
もしや、優聖からのメール?なんて思って画面を開けば予想的中。



《明日行きますか》


受信BOXに成瀬優聖。その下に短いメール文。



「明日…。あ、散歩のことか」



短文すぎて一瞬何のことか分からなかったが、ドッグランド以外になかった。
「行きます」という文字を打ったところで慌てて文を消した。
なんで敬語だ。敬語で書く必要なんてないじゃないか。相手は年下なのに。
けれど、どうも癖で初対面の人やあまり親しくない人に対して年齢関係なく敬語になってしまったりするのだ。
葉月は文を訂正した。


《うん、行くよ~!》


これでよし。
送信したところで一分かからないうちに返信がきた。


《でも明日雨らしいですよ》

《え!そうなの?じゃあ無理だなぁ》

《無理ですね》

《まぁ雨じゃ仕方ないもんね》



会話はそこで終わった。
区切りがついたところで葉月はスマホをぽんっと放り投げベッドに寝転んだ。
そっかぁ。明日は雨か。そうしたら暇になるな。
そう思いながらボーと天井を眺めた。

(クビになる前は暇なんて思う時間さえ無かったからなぁ…)

今すごく平凡な時間を過ごしていると思う。
まぁいつまでもダラダラしているわけにもいかないし。
来月には何かバイトを始めようと考えているわけだ。ニートを極めるのはさすがに無い。
どんなバイトにしようかな。
そんなことを考えているうちに睡魔はやってきて、そのまま電気を消して眠った。




****



「やっほー!遊びに来たっ」

「え、」

「あら花ちゃん久しぶりね~!遠慮しないで上がって上がって」

「葉月ママお久しぶりです!じゃあお邪魔しますね」

「いやいやいや!」



翌日。お昼前にも関わらず突然、花が家にやってきた。
特に驚きもしない母はむしろ嬉しそうに花を家にあげていた。
ちょっと待てい!と花の腕を掴めば「なによ」と不服そうに振り返る。


「来るなら一言ちょうだいよ…。なにも用意してないよ」

「驚かそうかなーって思って。大丈夫大丈夫、お菓子とか飲み物とかいっぱい買ってきたから!」

「……すごい量だね」



 花の手に持つ大きなコンビニ袋に入ったお菓子の数々に思わず唖然とする。



「あ、葉月ママ!これ大したものじゃないんですけど良かったらどうぞ」

「あら、バームクーヘン?私の好物覚えてたのねぇ。わざわざありがとう」

「いえいえ」

「今日はゆっくりしていってね」

「もちろん!そのつもりです。さぁ葉月、部屋行こ~!」



今度は花が葉月の腕をつかみ、ずんずんと葉月の部屋へ向かった。



「花、今日仕事は?」

「休み~。雨だしやることないし、暇だから葉月ん家行こうと思ってこうしておしかけてみた」

「そうっすか…」

「いいじゃんっ。どうせ葉月も暇でしょ?」

「なんかその言い方むかつく!けど暇です」



部屋に入るなり我が物かのように葉月のベッドに転がってくつろぐ花に、もう文句は言わない。
高校時代は毎日のようにどちらかの家に行っていたし、こうやって自分の部屋かのようにくつろぐ花の姿も見慣れている。
しかし本当にたくさんお菓子買ってきたな……と、花が持ってきたコンビニ袋の中を漁りながらその量の多さに少し呆れる。