純情女子と不良DK




 結局、優聖の言葉に甘えてポン太を彼に見ててもらい葉月はスーパーで買い物をしていた。
見た目はちょっと不良?っぽくて、学校だったらおそらく目立ったグループの中にいるんだろうな、なんてそんな事を思った。
そんな優聖が、こうやってポン太を見ててくれて自分をスーパーに行かせてくれている。
本当に人は見かけで判断するものじゃない。
しかも家の方向はまるっきり反対。お互い近い距離に住んでいるとはいえ、少し申し訳ないなと思ってしまった。

 夕飯の材料を買い終えてスーパーを出れば、入口付近にあるベンチに腰掛けながらポン太と自分の愛犬のマルとじゃれて遊ぶ優聖の姿が視界に入った。
無邪気に笑うその姿は、年相応のもので思わず小さく笑みが零れた。


(それにしても……やっぱりイケメンだよね…)



 まだ自分の姿に気づいてないのをいいことに顎に手をやりまじまじと優聖を観察してみた。
顔といい、容姿といい、まさに完璧に近いんじゃないか?
洋平もまぁ、そこそこかっこいい部類に入るけど、優聖は完璧に近かった。
あ、ほらあそこのJKとかめっちゃ見てるし。
そんな最強のイケメン男子高校生とこんな風に話して果たして大丈夫なのだろうか…。ファンとかに殺されたりなんてことは……。



「いつまでそこで突っ立てるんですかー」

「ん、え!?」



 気が付いていたのか。
視線は葉月に向けないまま、犬達とじゃれたままそう言った優聖に変に動揺してしまった。
そしてどこか悪戯っぽい笑みを浮かべながらこっちへ顔を向けて来た。



「人のことじろじろ見てましたけど?」

「…みっ、てないもん!ポン太とマルちゃん見てたの!可愛いな~って」

「はいはい」



 むかっ。
葉月の額に一つ、筋が浮かんだ。これはもう絶対年上に対する態度じゃない。
はいはいってなんだ、はいはいって。まるで自分よりも下の子に対して言ってるような口調じゃないか。
けれどここでムキになってはきっと余計からかわれるだけだろう。自分は優聖よりも4つも上なんだ。大人らしく、冷静に。



「……でもわざわざありがとう。家反対なのに。ということでこれはささやかなお礼としてどうぞ…」

「なんで飲むヨーグルト……」

「私の大好物です」



えー…、とか、俺の好物ではないんだけど、とぶつぶつ小さく文句を零す優聖に「いらないなら私が貰います」と言えば「いや俺が貰います」と言って飲むヨーグルトの紙パックを守るように葉月から遠ざけた。



「でもお礼が飲み物かぁ。違うのがよかった」

「……な、なにを要求するつもりですか!まさか…お金…!」

「俺のことなんだと思ってるんですか日高さんは」



 イケメン不良です。と言いそうになった言葉を喉の奥でおさえた。
どこか不満そうな優聖に葉月は表情を曇らせる。
お金じゃないなら、なんだ。ゲーム?いや、カードデッキ…とかだろうか。
 
 高校の時、休み時間にカードゲームをして遊んでいた男子達を見かけたし…。かと言って優聖がカードゲームをするという姿を想像できなかった。
うーん、うーんと唸っていると優聖がひらめいたように「あっ」と声をあげた。
一体何を要求されるのかと身構える。



「連絡先、教えてください」

「……え?」

「お礼に連絡先ください」



と言って手のひらをこっちに差し出してきた。
予想してたものと違って拍子抜けしてしまいポカンとしてしまった。
何も言わない葉月に、「はやくはやく」と急かす優聖。
葉月はハッとして戸惑いながら鞄からスマホを取り出した。



「えーと、LINE?」

「いや、俺LINEやってないんでメアドの方で」

「え、やってないんだ?今の高校生にしては珍しい…」

「なんかめんどくさいんで」

「メールの方が面倒だと思うけどな」

「LINEは既読ってのがあるじゃないですか。なんか既読つけたら絶対返信しなくちゃいけないみたいなアレ。そういうのが怠くて」

「それは言えてるかも」



そんなことを話しながら、お互いのアドレスを交換する。
なんだろう。なんかちょっと不思議な感じだった。


「よっし、じゃあ俺も帰ります」

「あ、はい。うん。またね」

「また」



アドレスを交換してスマホをポケットにしまい、優聖はそのまま背中を向けて行ってしまった。


(アドレスを、交換してしまった…)


 果たして交換する必要なんてあったのだろうか。
そんなことを思いながら葉月もポン太を連れて家へ帰った。