それから一時間ほど経ち、葉月はポン太をリードで繋いで帰る準備をしているところに優聖が隣に来た。
「帰るんですか?」
「うん。夕飯の準備しないとだし」
「夕飯?日高さんって一人暮らしなんですか?」
「え?いや、普通に実家!夕飯はまぁ、お母さんと当番制みたいな」
仕事がクビになって時間がありあまってるので夕飯を自分が作ることが多くなった、なんて言えるわけがなかった。
まぁ実際、母と当番制ということに嘘は無いし。
苦笑いをしながら言えば、優聖は「すげー」と感心したように声をあげた。
「俺のクラスとか周りにいる女子とかみんなっつーか、ほぼ料理できない奴らでめっちゃ不器用なんですよ。日高さんがレアに見える…」
「ふ、二十歳の女をなめるなよ。ていうかレアって言い方おかしくない?」
私は物か、と突っ込めば素直に謝ってきた。
まぁでもそうか。優聖は高校生。なんだか今の言葉だけで時代の差を感じてしまうというか、いいな高校生なんて思ってしまう。
「それじゃあ、私もう帰るから。またね。みなさんもありがとうございました~。お先失礼しまーす」
「あら葉月ちゃんもう帰るの?」
「はい。夕飯の準備しないとなんで」
「えらいなァ!うちの娘にも見習ってほしいよ」
「あはは!それじゃあ、また明日」
「おう、明日な~」
「またね葉月ちゃん」
みんなに挨拶をして手を振りながらその場を後にした。
さて、今日は自分が夕飯の担当をするものの……実はメニューが決まっていなかった。
帰りながら決めようかと思い、母にも相談しようとLINEアプリを開いた。
「夕飯決まってないんすね」
「!!?」
「あ、携帯落とした」
急に背後から声がして振り向けば、何故か優聖がいて葉月のスマホ画面を覗きこんでいた。
ふいうちすぎて思わず声にならない叫びをあげ、スマホを落としてしまった。
「き、君いちいち絡んでくるね!?ていうか何でいるの!」
「いや俺もちょうど帰ろうと思ってて。課題やんねーとだし」
「だからって私の背後に立たないで」
「殺し屋か」
「……おお!」
「…え、何感動してるんですか?」
「今のツッコミ良かったなって!なんか面白かった!」
なんかそういう台詞のあったよねーと嬉しそうに言う葉月に優聖は、心の中で「変わってる」と思った。
「で、夕飯はカレーがいいです俺」
「誰も君の要望は聞いてません」
「なんか日高さん、最初会った時よりキツくないですか」
「気のせいです」
と話しているところに母から返事が来た。
「今日はハンバーグがいいです」
「ちょ、ちょっと勝手に見るのなし!」
「見えちゃったんです」
「思いっきり意図的に見てるよねこっち覗きこんでるよね」
「日高さんナイスツッコミ」
グッ、と親指を立ててそう言う優聖にじゃっかんイラッとした。
はぁ、と溜息をはいて母に「わかった」と返事をする。
「……あ、でもハンバーグの材料あったかなぁ。いや、無かったような…」
「じゃあそのままスーパー寄ってけばいいんじゃないですか?あ、財布ないか」
「財布は持ってるんだ。けどポン太待たせて買い物するのは心配だし…一回帰ってからだなぁ」
「なら俺ポン太見てるんで、行ってきていいですよ?」
「えっ」
