父親は離婚してから会った記憶がない。なのに今、この場に来て泣きそうな顔をしている。


カズキには酷い事を沢山してきた。なのに自分を心配して泣いている。


「何で、……父さんが?」


修二の素朴な疑問に、目に溜まった涙を左手の甲でグイッと拭う父親。

そして、

「大切な息子を心配しない親なんかいないに決まってるだろ」

そうぶっきらぼうながらに答えた。


「……そっ…か」


修二は自分で思っているよりも家族に愛されていたという事だ。


その事に修二の頬が少し緩む。


「何処か痛い所は?気分は大丈夫なのか?」

「今、目を覚ましたところなんだから、そんな矢継ぎ早に訊いちゃだめよ」

「ああ。そうか」


父親と母親の会話が聞こえるが、それもどこか懐かしい気分に修二をさせる。


その時、ふわっと修二の右手が温もりに包まれた。


右手へと視線を落とせば、涙とお兄ちゃん…という言葉を漏らしながら、カズキが両手で修二の手を握っている。


そんなカズキの様子を目にして、ふとあの時の声を思い出した。


拳銃で撃たれた後に聴こえてきたあの声を。