教室を飛び出して、体育館へと繋ぐ廊下を走っていると、急にガクンと体が止まった。


ドキッとした。


でも後ろから呼ばれた声と掴まれた手は、全く違うものだった。


『離して!』

そう言いたいのに言葉が出せない。



なんで、なんで岩島なの?!
もう本当にほっといて欲しい。

さっきのを笑いに来たの?
それでここまで追いかけてきたの?


そうだとしたら、本当に最低だ。




「……離してよっ」

「それは……、できない」


ようやく言えた言葉を否定され、あたしは少し目を大きくさせた。


できない?
何言ってるの?意味わからない。
簡単なことなのに。



「ごめん、ほんとにごめん!全部俺のせい、なんだ」


後ろで謝る岩島。
その声は震えている。


俺のせい?
そうだよ。全部アンタのせいだ。
今気付いたの?


スッとゆっくり離され、自分の手がぶらんと宙に揺れた。

やっと離してもらえた。
ホッとして顔を見ずにまた歩き出す。




「ほっとけないんだ!まだ好きだから」


その声に思わず振り向いた。
なんで振り向いたのか、わからない。
やっぱり、まだ岩島のこと……。


岩島は真っ直ぐあたしを見つめる。

あたしはその目を逸らすことができなかった。


なんでかって?


またあの頃と同じ目だったから。
輝いていたあの思い出と同じ、あたしをちゃんと見て優しく見据えるその目。


徐々に詰めてくる距離に怯むことなく岩島を見据えた。