神楽がいる教室へ着くとそこにはまだ誰もいなかった。


あと5分ぐらいで人は来るだろう、そう思って俺は自分の教室へ戻って行った。



その行動は神楽への合図とも知らずに──。







5分経った頃、再び教室を出て目的地へ向かう。

徐々に近づいてくる目的地はともに賑やかになって、俺の胸はざわつき始めた。



足早に目的地、4組へ。
けど、遅かった。




「ねぇ、木下さん。これってどーゆーこと?」

「そ、それは……!!」


教室からは二人の声が聞こえた。
楽しげに問う神楽。
驚きと困惑をにじませている木下。

中の状況は俺には分からない。
ドアが締まってるから。


なんで、こんな時にっ。



「木下さんって、隼田くんと付き合ってるんじゃなかったの?あ、ほんとはまだ岩島の事が好きなの?そうでしょ!?」



なんて女だ。
いくら何でもこれは言い過ぎだ。
女子ってこんなに変わっちゃうもんなのか?!



てか、彼氏いないの?この場に。

……それが狙いか。





──ガラッ、バンッ……!




いきなりの音に心臓が飛び跳ねた。

そちらに目をやるとこっちに向かおうとした木下と目が合った。


目が大きく開かれ今にも泣きそうな歪んだ顔。
もう泣いているのかもしれない。


目が合ったのはほんの数秒で、木下はUターンさせて行ってしまった。



俺はその後ろ姿をただ眺めているだけ。
本当は追いかけたい。
けど、それじゃ木下にもっと嫌な思いをさせてしまうから。




──本当にそれでいいのか?


違う自分が問いかける。



俺は強く握り拳を作り、走り出した。




木下、ごめん。
散々傷付けて、泣かせて、ごめん。
嫌われてもいい。
もう、俺にはあの時と同じ笑顔を見せてくれなくてもいい。


それでも、笑顔をもう一度。




「っ!…………っ木下!」


木下の姿を見つけた俺は手首を掴み取った。