だけど、それが私たちの離れた時間の証なんだ。

畑野くんが私との別れを決めて。
彼の前から消えることを私が決めた。

そして二人が別々に生きた、知り得ることのない10年という長い年月は、一言では表せないほど、お互いやそれを取り巻く環境を変えて。
もはや少しの歩み寄りで取り戻せる距離にはない。



それが分かっているから。

だからこそ、見たくなかった。
ううん。見るべきじゃなかった。

利き手じゃない左手でやり難そうに財布を引き寄せようとした彼の仕草に、ふと懐かしさを覚えた私は、きっと自分の心を過信していた。

取り出した保険証と共にカード入れの隙間からひらりと舞い落ちた、藍色の小さな一片。

まさか、そんな小さな一片が私の心を大きく揺さぶるなんて。

私でさえも、想像しなかったのだから…―――。