「バカだと思う。過去に囚われて今の幸せを手放すなんて、常識のある大人のすることじゃないって分かってる。でも…」

捨てられなかった縁結び。

それは、形のない記憶というものの中で、日毎おぼろげになりゆく畑野くんとの想い出の中で、唯一変わらずに在り続ける、あの日々の証だったんだ。







「…俺たちが一緒にいた2年間が、そんな小さな想い出に劣るなんて、簡単には受け入れられないけどさ」



長い沈黙が続いた後。



「……もう、無理なんだろ?」



声を落とした慶介さんの問いが、胸に重く突き刺さった。

否定にせよ肯定にせよ、どのみちもう彼を傷つけてしまったことに変わりはなく。


「……ごめんなさい」



ダメ押しのような私の一言に、慶介さんは肩で息を吐くと数回頷いた。