畑野くんと別れ、病院のある通りから何処をどうやって歩いてそこに辿り着いたのか。何処に向かっていたのか。

近くに数年勤務していても入り込むことの無かった薄暗く寂れたその場所は、見事に私から方向感覚を奪い取り。

近くのビルに表示されていた住所を頼りに、慶介さんが迎えに来てくれたのだった。

「でもまぁ、オロオロしてた実乃もハムスターみたいで可愛かったけどね」

「もう…」


心の奥にしまった非情な決意とは裏腹に、慶介さんの優しさと懐の広さに触れて、言葉が続かない。

何もなかったかのようにこのまま彼に身を委ねれば、万事上手く収まるのかもしれないとさえ思う。


けれど、それはこれまでの私となんら変わらない。

付き合い始める時、同じ時を過ごした日々、そして。

プロポーズされた時。

畑野くんへの想いを、慶介さんの人柄に包まれることで過去のものにしようと区切りを付けていた。
……そのつもりだった狡い私と変わらないから。