忘れるなんて出来る筈が無いのはもう十分分かっている。

けれど、須藤には幸せになって欲しい。

光り輝く未来へと、俺の好きな真っ直ぐな瞳で進んで欲しい。


―――彼女の、選んだ人と。

「分かった……幸せに、なれよ」

俺にかけられる言葉はもう、ひとつしか残されていなかった。

「……ありがとう」






いつか、彼女の隣で無条件に笑える存在があるとしたら。

それが俺であればいいと思い描いた幼い日があった。

過ぎ去ったあの日々を未だ笑って振り返れない俺が、この切なく傷む感情を懐かしく振り返ることが出来る日はきっと。


ずっとずっと、先のことなんだろう。


彼女のカバンの中から鈍く響き始めた振動音と着信メロディが。

この時間の終わりを教えていた。