「濠、ありがとう。二度も婚約指輪をもらえるなんて、私は幸せ者だね。
濠のことも、私よりも幸せにしてあげるから、安心して」
「……ああ。期待してる」
「うん。私が大好きな薔薇の演出も忘れなかった濠のこと、もっと好きになった」
「あ、気づいたか?」
「当然。この席に座ったときからちゃんとわかってたよ。
薔薇の香りがする石鹸のおかげで私たちは再会できたんだもん、薔薇は特別。
気のせいかもしれないけど、そのキャンドルからも薔薇の香りがする」
テーブルをほんのり照らすキャンドルに視線を向けると、濠もキャンドルを見ながらほほ笑んだ。
「気のせいじゃない。このテーブルだけ、薔薇の香りのアロマキャンドルに変えてもらったんだ。
透子の喜ぶ顔が見たかったから、夕べ慌ててネットで注文して、さっき届いたばかりだ」
さっきまで濠が見せていた、どこか弱気な様子はどこへやら。
一輪の赤い薔薇がきれいに咲いている小ぶりの花瓶と、その横で温かい炎を揺らめかせているオレンジ色のキャンドル。
ほんのりと漂う薔薇の香りは私と濠の思い出の香り。
五年ぶりに偶然の再会を果たすきっかけともなった、大切な思い出の香り。
濠がその思い出を忘れずにいてくれたと思うと、心が優しくなり、和んでいく。
そんな特別な雰囲気のせいか、私はいつになく素直な気持ちになることができた。
わざわざ取り寄せてくれたというキャンドルの光を見つめながら、私はゆっくりと口を開く。

