初めての時と同じようなペンキだらけのつなぎにぼさぼさ頭。
何も変わった様子のない倉持先生がにこにこと空気を和らげる。
「ちげーよ!好きな女がかぶったことねーし、こんな覇気も色気ものねー女は趣味じゃねーし」
「雄大、高野さんは素敵な女性だよ、失礼な。・・・というか倉持先生」
ギスギスした空気は霧散したけれど、土谷さんの全力否定は若干傷つく。
ざっくりとした坂木さんのフォローにかろうじて救われるが、あくまで社交辞令の範囲内。
私を腕の中に抱きこんだことを坂木さんが全く意識をしてくれていないどころか、現れた倉持先生に興味の対象が一瞬で移ってしまい、あっさり放される。
「倉持先生、仮にも自分の作品があるギャラリーなんですから、食べこぼさないでください。作品が汚れたらどうするんですか。そもそも、歩きながら食べないで」
倉持先生の保護者として、またオーナーとして意識が切り替わった坂木さんの背中が、倉持先生が立ったままマフィンに噛り付いているのが視界に入る。
足元にボロボロとマフィンのくずが落ちているのは、なんだか予想通りで、胸の内の苦い気分を薄れさせてくれる。
「お久しぶりです、倉持先生」
「んーと、誰だっけ?」
作品同様、人物にはあまり興味がないのか、口の中をマフィンで一杯にしたまま倉持先生が首をかしげる。
きょとんとした顔は演技にも見えないし、そんな芸ができるような印象はない。
たぶん、全く覚えていないのだろう。

