「真理ってすげー天然タラシだろ。こうやってお得意様マダムの心をがっちり掴むんだよな。佳苗ちゃん、勘違いしたくなるとは思うけどな、あれが真理のデフォルトだから。美術品バカの真理は一人でいつまでも解説できるし、俺とおいしいマフィンでも食べようぜ」
土谷さんの腕は私を方向転換させ、坂木さんから引き離すように歩き出す。
今の対応は私だけじゃなく、お客さんにも同じように接してしているんだ。
あくまで接客業なんだから、私だけが特別じゃない。
土谷さんの言葉はもっともで、繰り返し自分に言い聞かせる。
勘違いするな。
お客さんとして、迷惑料として、ネックレスを貸したから優しくてくれているだけ。
私だって、わかっている。
何より、坂木さんには心に決めた相手がいるんだから。
一人で一日だけ夢心地になるくらいは許してくれたっていいのに、と反発する心とともに土谷さんの腕から逃れようとするが、それを阻むように余計に土谷さんは強く肩を掴んでくる。
「雄大、近過ぎ。高野さんから離れろ」
後ろから着いてきた坂木さんが口で土谷さんを咎めてくれるが、土谷さんの腕は緩む様子もなく私の耳に顔を近づけてダメ押しの一言。
「真理は誰にでも優しいんだ。初心な佳苗ちゃんが舞い上がる気持ちもわからなくないけど、あいつ許婚がいるからな」
「・・・さっき、聞こえました」
改めて釘をさされたことに反発して立ち止まりろうとしたが、力負けして引きずられる。

