私も体力を使う仕事をしている分、普通よりはよく食べるほうだと思っていたけれど、サンドイッチだけで十分おなかが膨れてしまう。
もしかしたら、坂木さんと一緒で緊張していることも一因かもしれない。
好きな人がいると食事が喉を通らなくなるというけれど、初めて少しだけ気持ちがわかった。
お腹というより、胸がいっぱいになる。
食事以上に、一緒にいられることとか、相手のことを考えることのほうにエネルギーをまわしてしまうのかもしれない。
食べ終わってしばらく直美の遅刻話や土谷さんの遅刻話をしていても、土谷さんも倉持先生も帰ってこず、坂木さんに促されて作品を見て回ることにした。
坂木さんは一つ一つの作品のタイトルや先生の作品に込めた思い、出来上がるまでのエピソードを交えながら、倉持先生の作品が心から好きなんだろうとわかる、慈しむような眼差しを作品に向ける。
倉持先生と坂木さんの関係を思うと、とても微笑ましくて、坂木さんの声を聞きながら和やかな気分になる。
「先生の作品は基本的に人の心や景色に溶け込む空気を表現したいそうです。だから、人物画は服のデザインくらいで、ほとんど出てきません」
1歩先を歩く坂木さんが嬉しそうに体の向きを変えて私と向き合うと、左手を上げるので、その先に視線を向ける。
大きな額縁の中に、女性が子供を抱いている姿がぼんやり浮かび上がる。
「これは倉持先生が絵画作品として書かれた初めての人物画で、後にも先にももう描かないと仰っている貴重なものです。先のことはわかりませんけどね」

