坂木さんは荷物とともに『Staff Only』の表示があるドアの向こうに買って来たものと手土産を持って消え、残された私は独特な空気にどうしたらいいかわからず、しばらく視線を彷徨わせ、すぐに戻ってきた坂木さんに早速助けを求める。
「どこから見たらいいんでしょう。順路とかってありますか?」
「いや、美術館じゃないので、高野さんの見たい順番でどうぞ。申し訳ないですが、少しお客様の対応をしてまいります。すぐ戻りますので、自由にご観覧ください」
後半は仕事仕様の口調になった坂木さんが向かったのは、見るから高級そうな毛皮を羽織った先客の元。
放り出された感じが少し寂しかったが、残された私にできるのは本来の目的であるギャラリーの見学。
ギャラリーを見渡すと大きくて迫力のある絵もあるが、最初に見た水溜りのような遊び心のある展示や服を着たマネキンも置いてある。
おずおずと一番出入り口の近くに展示されていたの作品に足を勧めると、天井の高いギャラリーの白い壁に対して控えめな印象で飾られているキャンパスには淡い色使いの絵。
鳥の巣頭に無精ひげ、ペンキだらけのつなぎ姿の倉持先生からは想像できない、繊細さ。
水彩でぼかされていてはっきりとした輪郭はないが、どこかの湖のある風景に見える。
少し離れたほうがキレイに見えるかもしれない、と一歩後ろに下がると、奥から大きな笑い声とともに先客の年配女性が、スーツの女性と坂木さん土屋さん両名を従えてヒールの音を高々とさせながら出入り口に近づいてくる。

