神様の藥箋




彼女が帰った後は、馴染みのある部屋に物凄い違和感を感じた。


在るべきものが欠如してしまったような。

そんなことを考えるのはおかしい。




もともとなかった存在なんだ、彼女は。


ただ、神のいたずらか何か知らないけれど、たまたまうちに薬剤師としての腕を磨きに来ただけのこと。


それなのに、このいいしれない喪失感はなんだ。





朝起きても、冷たい机の上には何もなく、


山に行っても傍らに誰もいない。
時々、村人と山に入ることはあったけれど、何かが違う。かけ違えたボタンのような違和感がぬぐいきれなかった。


湿った土に触れる度、汚れる事も厭わず一心に薬草を摘んでいた白い手が脳裏をかすめる。




家に帰っても、なぜか閑散として寒々しいと感じるのは、気温のせいではない。





風呂に入ってください、などと何度断ってもめげずに言ってきた存在がいなくなって。






寂しい、と感じている。