朝になれば暖かなスープと、パンが。
箪笥を開けるときっちり畳まれた衣が。
野山から帰ると綺麗な濡れた布巾と、野菜をたっぷり使った昼餉が。
ちょうど小腹が空く頃になると、盆を片手に軽食を持って書斎に現れた。
夜になると、山で取れた薬草を見事に調理しておかずに変身させ、食べ終わる頃には丁度よい湯加減の風呂を準備してのけた。
決して、その行為はやかましくなく、静かに、そして素早く丁寧で、穏やかだった。
少しずつ……少しずつ…………
生活の中に、彼女の存在が溶け込むように、けれど確かに大きくなっていく。
………女というものは、恐ろしいと思った。
彼女は、頭は切れてもそういった策略には縁遠い考えの持ち主だったから、図ってはいなかったと思う。
無意識のうちに、彼の生活に浸食していった、と言う感じだった。
無意識だからこそ、その無邪気さが恐ろしいと思った。

