神様の藥箋




二十八の時に、高級官僚の娘であった十八の彼女が、医術の腕を磨く為に、この古臭いちっぽけな家にたったひとりでやってきたのだった。




その頃は、それなりに、信頼も獲得してきたし、彼女の父親も、婚期を逃し女に全く触手を伸ばさずという天才医師が、まさか小娘に手を出すとは考えもしなかっただろう。




…まぁ、その判断は間違っていなかった。


手を出されたのは、どちらかというと彼のほうだった。





昼夜問わず、野山を巡っては薬草を探し当て、効能についてお互いに思案した。

その頃からエレナの怜悧な思考には、舌を巻いたが、ぱっちりとした明るい緑の瞳に、磁器のような白い肌はつややかで美しいのに、何の飾り気がなく、どうしてこのような、華やかでもなんでもない仕事に興味を向けるのか、不思議でならなかった。





なにより不思議でならなかったのが、彼女がやがて、自分との将来をあからさまに語るようになった事だ。





例えば、仕事を終えて彼が家に戻ってくるとエレナは既に食事の準備を整えていて。




家から戻って食事の用意がされているなんて、何年ぶりだろうか、と半分冗談の口調で彼女にいうと。




ここにわたしを置いてくだされば、いつだってご用意致しますよ。



といたく真面目な顔で返されてしまった。