何をいえばいいかわからない。
と思う前に言葉は勝手に口をついてでてきた。
「アストリアに行ってしまったら、二度と会えぬのだろう?
既に他の男に渡った娘に、こんなことを言うのは非倫理的だと十分、承服している。
卑怯者だと、自分勝手なやつだと、理解している。
それでも…
俺は多分、耐えられない。
エレナのいない生活は、もう考えられない。」
エレナの肩を掴んだ手が、燃えるように熱い。
俯いてしまっている今、エレナがどんな顔をしているのかわからない。
馬鹿だ、と思う。
これは親友に対する裏切りだ。
人の恋人に、手をつけようとしているんだ。
自分の行動が信じられない。
わかっている。非道徳的な事だと。痛いほど。
誰かの気配に心が安らぐ事も。
誰かに心を動かされることも。
それが誰か他人に渡ると知って感じる、焦りと羨望も。
全てが初めてで、狼狽え戸惑う自分がいる。
それでも。
心の中に罪悪感は渦巻いていても、不思議と躊躇いが湧いてこなかった。
それと同時に、すとん、と納得が心の中に落ち着く。
あるべき場所に、それが戻ったような。
ずっと前から間違えてしまってきたものが、ようやく元あるところに仕舞われたかのような。
ああ、と改めて実感する。
認めた瞬間、熱い帯のような感情が胸をぐっと締め付けた。
こういうことなんだ。
恋に落ちるというのは。

